Professor

笠井利浩

福井工業大学

環境情報学部 環境食品応用化学科 教授
雨水利用システム

JST(科学技術振興機構)の「STI for SDGsアワード」で優秀賞を受賞

持続可能なまちづくりをめざして
雨水の恵みを水資源として有効利用

全家庭に雨水タンクを設置し
洪水緩和や災害時の水確保に利用

 気候変動によって、猛暑日や豪雨などの異常気象が多発し、自然災害が急増している。この危機的な状況を打開するために、「雨水の利用」に着目した研究に取り組んでいるのが、福井工業大学環境情報学部環境食品応用化学科の笠井利浩教授だ。

「これまでは、降った雨はそのまま下水に流していました。しかし豪雨が頻発すると、それが都市型洪水の要因になっていました。そこで私が提唱しているのが、雨水タンクの設置です。豪雨の際、いったんタンクに溜めるシステムが構築されれば、緩衝の役割を果たし、洪水の緩和につながります。逆に、気候現象の極端化は渇水を生む可能性も大ですし、災害発生時の避難所の水確保も喫緊の課題になっています。そうした問題も事前にタンクに蓄雨しておくことで解消されます。実は、降り始めの雨は大気中の埃や汚染物質を取り込むため汚れていますが、本降りの雨の水質は良質で、浄水器をつければ避難所などで飲用にも使えるのです」

 2014年、「雨水の利用の推進に関する法律」が施行され、公共施設には大型の雨水タンク設置が義務づけられた。笠井教授は、それに加えて、すべての家庭に小型の雨水タンクが設置されるように、雨水タンクの有効性を明らかにしていきたいと意気込む。

 また、福井工業大学には2019年、「AI&IoTセンター」が発足した。笠井教授もメンバーの一人であり、AIやIoTの活用によって、新たな研究も始動している。

「雨水タンクにIoT制御装置を取り付け、気象庁の雨量予測データに基づき事前にタンク内の貯水量を調整するシステムや、自治体が域内のタンクの貯水量を把握し、遠隔で一元管理する仕組みなどの研究が進行中です」

赤島の雨水利用システムの概念図

環境系アワードで優秀賞に輝く
五島列島「赤島」のプロジェクト

離島の生活体験によって
学生たちは大きく成長する

 笠井教授には、研究に取り組む上で、大切にしているポリシーがある。

「SDGsの採択もあって、環境問題や持続可能な社会への関心が高まっています。しかし、それが一種のブーム、見せかけのパフォーマンスで終わったのでは意味がありません。私は、実体を伴った研究活動を進め、着実に社会に普及させることに力を注いでいます」

 そのポリシーが如実に表れているのが、長崎県五島列島「赤島」で展開しているプロジェクトだ。

 島民20名弱の赤島は、上水道が整備されておらず、生活用水を雨水に頼ってきたが、大気汚染による水質悪化が懸念されていた。その状況を改善するため、5年前から、笠井教授は研究室の学生と一緒に夏休みの3週間、赤島に逗留。森林を開墾し、雨畑(雨水の集水装置)と雨水タンクを設置して配管作業を実施。安心安全な飲料水を作り、住民へと供給するシステムを構築した。重機が使えないなか、ムカデやハチに悩まされながらも、学生たちはすべての作業を人力でこなした。

「赤島には、商店はもちろん、自販機すらなく、普通のまちと同様のサービスは受けられません。学生たちはそうした環境で3週間生活することで、電化製品にあふれた都市の日常生活がいかに異常な状態かを知り、その生活がいまの環境問題を生んでいることを自覚します。また、常に被災した状態のような赤島での生活を通して、今後の日本で間違いなく増える自然災害の対処法について教訓を得たり、世界の辺境地の課題解決へと視野を広げたりしながら、学生たちは大きく成長していくのです」

 笠井教授は赤島の生活をもっと多くの人に体験してもらおうと、小中高校生向け、企業研修用など、環境教育プログラムも開発・実施している。また、赤島のプロジェクトは外部からも高く評価されている。2020年度は、JST(科学技術振興機構)の「STI for SDGsアワード」で優秀賞を受賞。また、㈱LIXILとの共同事業で洗浄水量を調節できるレジリエンストイレ(災害配慮トイレ)を赤島に設置した取り組みも、「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靱化大賞)2021」で最優秀賞を受賞した。持続可能なまちづくりの核を担っていく研究が着々と結果を出している。

ドローンで撮影した赤島

人力で作業を進める学生たち(雨畑資材運搬の様子)

赤島に設置された「雨水タンク」

福井工業大学

「工科系総合大学」として広がる学びのフィールド

福井工業大学は、常に時代に合わせて、社会が求める大学像を追求し続けてきました。現在では「工業大学」の枠を超えて、3学部8学科を擁する「工科系総合大学」へと進化を遂げ、工学から環境情報、そしてスポーツ健康科学まで、学びのフィールドは多彩に広がっています。

JAXAとの共同研究「ふくいPHOENIXハイパープロジェクト」

2020年度、福井工業大学で始動したのが「ふくいPHOENIXハイパープロジェクト」。JAXAとの共同研究を立ち上げ画期的な活動が展開されています。月周回軌道衛星との通信を可能とする高性能な口径13.5mのパラボラアンテナ、地球周回衛星との通信を可能とする口径3.9mのパラボラアンテナシステムを新たに整備し、月探査用衛星地上局の開発と性能実証の共同研究が立ち上がっています。このような規模と性能を有する衛星地上局は大学・民間では国内唯一であり、この地上局を世界の宇宙開発および宇宙産業に貢献する人材育成の拠点となることを目指します。

学部学科

■ 工学部:電気電子工学科/機械工学科/建築土木工学科/原子力技術応用工学科 ■ 環境情報学部:環境食品応用化学科/経営情報学科/デザイン学科 ■ スポーツ健康科学部:スポーツ健康科学科

主な就職実績

関西電力、中部電力、東京電力ホールディングス、北陸電力、きんでん、竹中工務店、日本原子力発電、ドームユナイテッド、東日本旅客鉄道、五洋建設、西松建設、日成ビルド工業、飛島建設、北陸電話工事、大和ハウス工業、西日本旅客鉄道、NTT 西日本、前田工繊、大同工業、シャープ、三菱電機、東亞合成、日本製鉄、UACJ、太平洋工業、日立造船、サカイオーベックス、セーレン、ゲンキー、愛媛銀行、福井銀行、大和冷機工業、三協立山 ほか

お問い合わせ先

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入試広報課 TEL:0120-291-780