Professor

羽村季之

関西学院大学

生命環境学部(2021年4月誕生) 環境応用化学科 教授
有機合成化学/構造有機化学/合成法開発/材料化学

世界初の分子をつくり出し
未来の材料を開発する

高反応性分子を活用した
革新的な合成技術を開発

「有機合成化学」とは、有機化合物を人工的につくり出す方法を研究する学問だ。200年以上の歴史を持つが、人間がつくり出せない有機化合物はいまだに数多くある。その中で、この世に存在しない新たな有機化合物を生み出すための「合成法の開発」に挑戦しているのが、関西学院大学生命環境学部環境応用化学科の羽村季之教授だ。

「私が重点を置くのは、π共役系有機化合物です。材料科学・生命科学における重要な物質群でありながら、構成する芳香環・複素環化合物の合成技術が足りず、新物質の創製には制限が多いのが現状です」

 そこで羽村教授は、これまで扱いが難しいとされてきた高反応性分子を活用した革新的な合成法を考案。既存法ではアプローチが困難だった置換ポリアセンをはじめ、二次元・三次元にπ共役系が拡張された多様な芳香族分子を効率よく合成する手法を開発した。

「潜在的に高いエネルギーを持つ高反応性分子をうまくデザインすることで、今まで誰も実現できなかった複雑な形状の分子や不安定に見える構造の分子を生み出せるようになりました」

リチウムイオン二次電池や
太陽電池への応用を図る

 独自の合成法で新しく生み出した有機分子の「機能の探索」も羽村教授の研究の柱だ。

「これまで地球上に存在しなかった分子を生み出しているため、その性質・機能は誰も知りません。ある程度の予測は可能でも、本質的にはつくってみて初めてわかります。予想以上に特異な性質を持つ場合もあり、さまざまな分野に応用していくことができます。それがサイエンスの面白さのひとつです」

 実際、羽村教授の新たな合成技術やそれにより生まれる有機分子は注目を集め、多彩な共同研究が進んでいる。その研究が、新しい分子の機能や有用性のさらなる解明につながっていく。

 例えば、ベンゼン環が円盤状になった分子は、リチウムイオン二次電池の性能向上に役立つ可能性があるという。円盤状の構造によりリチウムイオンが入り込む隙間が増え、電子を収容する容量が格段に向上することが共同研究で明らかになってきているのだ。

 また、三つ柏のような、三方向に延びた形状のベンゼン環は、太陽電池への応用が期待されるという。

「ひとつの光で励起された分子がそばの分子を励起するシングレットフィッションという現象が、三方向に伸びたベンゼン環の構造によって効率が高まることがわかってきました。超高効率の太陽電池をはじめ、いろいろな素材に応用できる可能性があります」

 世界初の分子の創製は、未来の素材を生み出すための最初の一歩とも言えるだろう。

常識を疑う姿勢とたゆまぬ試行錯誤が
世の中にないアイデアを生み出す

MRIの感度増強にも
有機分子が役立つ

 さらに、生命科学の分野でも羽村教授の生み出す有機分子や分析手法が役立つという。

「一例を挙げればMRIの感度増強に寄与できると考えています。がん細胞を発光させる蛍光プローブに、私たちが合成した新しい有機分子をドッキングさせることで、従来よりも精密にイメージングできたり、効率よく測定できたりするのです」

 新しく生み出される有機分子の応用により、これまで見逃されてきた微小ながん細胞なども発見できるようになるかもしれない。期待は膨らむばかりだ。

 今後も、誰も見たことがない有機分子の合成をめざすと語る羽村教授。大切なのはアイデアとたゆまぬ試行錯誤だという。

「半世紀前には『取り扱えない』とされていた分子も、私たちの高反応性分子を活用するという新たな発想で扱えるようになりました。もちろん合成の研究はトライ・アンド・エラーの繰り返しで、失敗の方が断然多いです。しかしすぐに諦めるのではなく、うまくいかない原因を探り、皆でディスカッションをして、新たなアイデアで挑戦を続ける。それが研究の真の面白さであると考えています」

パソコンを用いたシミュレーションにより、この世にまだ存在しない分子の性質や機能の予測や、新たな合成法の検討を行う

測定に使用するNMR。強い磁場の中での共鳴現象を観測することで、物質の分子構造を原子レベルで解析できる

目先の成果にとらわれない研究の真の面白さを伝えるべく、学生とディスカッションを繰り返しながら、合成の手法や考え方を深めていく

関西学院大学

文理5学部を擁する分野横断型キャンパス始動

2021年4月、本学は神戸三田キャンパス(KSC)に理学部、工学部、生命環境学部、建築学部の理系4学部を新設しました。これによりKSCは、総合政策学部を含めた文理5学部を擁する、分野横断型キャンパスになりました。5学部の学問分野を横断して学べる文理融合・分野横断型教育システムを新たに整備するなど、学部間の連携を積極的に推進することで、世界の課題を解決する「境界を越える革新者(Borderless Innovator)を輩出します。

理系学生のビジネスマインド醸成の場「BiZCAFE」オープン

KSC内アカデミックコモンズにBiZCAFEが2021年4月にオープン。国内外の大学近辺で「知るカフェ」を運営する株式会社エンリッションが、国内の大学で初めて導入する取り組みで、株式会社スノーピークと本学が共同開発した「KSCオリジナルマイボトル」を持参した学生に対し、コーヒーや紅茶等の飲料を無料で提供します。また、BiZCAFE内では、学生が企業や団体と協働しながら、社会や事業の課題解決に役立つ研究を実践する機会を提供するプログラム「BiZCLASS」も展開。理系学生のビジネスマインド醸成を後押ししていきます。

学部学科

■ 神学部 ■ 文学部:文化歴史学科/総合心理科学科/文学言語学科 ■ 社会学部:社会学科 ■ 法学部:法律学科/政治学科 ■ 経済学部 ■ 商学部 ■ 人間福祉学部:社会福祉学科/社会起業学科/人間科学科 ■ 国際学部:国際学科 ■ 教育学部:教育学科 ■ 総合政策学部:総合政策学科/メディア情報学科/都市政策学科/国際政策学科 ■ 理学部:数理科学科/物理・宇宙学科/化学科 ■ 工学部:物質工学課程/電気電子応用工学課程/情報工学課程/知能・機械工学課程 ■ 生命環境学部:生物科学科/生命医科学科/環境応用化学科 ■ 建築学部:建築学科
※ 2021年4月開設

主な就職実績(2020年3月卒業生実績)

パナソニック、ダイハツ工業、オムロン、桐灰小林製薬、富士薬品、コカ・コーラボトラーズジャパン、西日本電信電話、西日本旅客鉄道、東海旅客鉄道、三菱電機、グローリー、五洋建設、富士電機、富士通、NECソリューションイノベータ、日立ソリューションズ・クリエイト、三菱電機エンジニアリング、みずほ証券、日本政策金融公庫、住友不動産販売、兵庫県教育委員会京都府教育委員会 ほか

お問い合わせ先

〒662-8501 兵庫県西宮市上ケ原一番町1-155
広報室 TEL:0798-54-6017