Professor

小池あゆみ

神奈川工科大学

応用バイオ科学部 応用バイオ科学科 教授
遺伝子工学/タンパク質化学

シャペロニンの立体模型

傷ついたタンパク質を再生させる
「シャペロニン」の機構を解明する

ルノワールの絵画に登場する
貴婦人が名前の由来

 フランスの画家ルノワールの絵画「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」の中央にいる黒いドレスの貴婦人。彼女の肩書きは「シャペロン」。社交界デビューする若い女性の世話をする介添人だという。このシャペロンを名前の由来とするタンパク質の分子がある。それが「シャペロニン」だ。

「ヒトの細胞内には、およそ10万種のタンパク質があり、それぞれ固有の機能を持っています。こうしたタンパク質は、細胞内でストレスを受けると変性して、正しい機能を担えなくなることがあります。シャペロニンは、こうした変性タンパク質の構造を再形成させる機能を持っています。シャペロニンの構造体には、カゴのような空洞が2つあり、変性タンパク質を一定期間閉じ込め、再生させると放出します。生命活動に必須のタンパク質で、ヒトを含むすべての生物の細胞内にあります。私は15年以上前から、シャペロニンが細胞内で担う役割とそのメカニズムの解明に取り組んでいます」

 そう語るのは、神奈川工科大学応用バイオ科学部応用バイオ科学科の小池あゆみ教授だ。ストレスで傷ついた仲間をやさしく包み込んで再生させるタンパク質―。その機能も名前も実にエレガントだ。

Aがシャペロニンの機構モデルの定説とされていた「弾丸型」中間体を経由するモデル。
Bが小池教授が発見し、論文を発表した「フットボール型」中間体を経由するモデル。

教科書さえ更新されてしまうのが、
バイオテクノロジー研究の醍醐味

従来のシャペロニンの
機構モデルに矛盾を感じた

 シャペロニンの研究が加速したのは、1990年代に遡る。当時、さまざまなストレス応答タンパク質が発見され、この分野の研究が加熱していた。高温などのストレス下で大量に発現するシャペロニンに注目する研究者も多く、機能解明が進められた結果、2000年頃にはシャペロニンの細胞内での反応機構モデルができ上がっていた。小池教授がシャペロニンの研究と出合ったのは、まさにこの頃だ。

 東京都内の大学でポスドク(博士研究員)として研究に従事していた小池教授は、当時定説だったシャペロニンの機構モデルに矛盾を感じていた。同じ研究に長期間携わっていると小さな矛盾を先入観がかき消してしまいがちだ。小池教授はそこを見逃さなかった。

「当時、シャペロニンが変性タンパク質を空洞に包み込み“フォールディング”を行う際は、必ず楕円形の構造体の片側だけが機能すると考えられていました。『弾丸型』と呼ばれていたこの定説に対して、私は構造体の両端で同時にフォールディングを行う『フットボール型』中間体の重要性を主張し、その機構を論文で発表しました。その論文は、2008年の『ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー』誌に掲載され、アメリカの著名な研究チームの定説を覆すことになりました。それは教科書を変えてしまうような大発見でした。まだまだ未解明な研究領域が多く、教科書さえ常に更新されてしまうのが、バイオテクノロジー研究の醍醐味なのです」

 小池教授は現在、自ら発見し、機能解明を進めているシャペロニンの反応機構を医療分野で応用する研究にも力を入れている。具体的には、「ドラッグデリバリーシステム」としての活用だ。これは薬剤を効率的に患部に運ぶ技術で、世界中のナノテクノロジーの研究者たちが、さまざまなアプローチを試みている。小池教授は、シャペロニンが空洞を開閉する時間を人工的に制御し、そこに特定の化合物を閉じ込め、患部に送達する技術の確立をめざしている。

シャペロニンの機構解明から
生命進化の謎に迫る

「私は工学部応用化学科からキャリアをスタートしたこともあり、常に研究成果の社会実装に意欲的です。しかし、研究者として忘れてはいけないのは原理の追究です。私の目標は、やはりシャペロニンのメカニズムを完全に解明することです。タンパク質の再生を助けるシャペロニンが、生物の細胞を維持する重要な役割を担ってきたのは間違いありません。細胞内のタンパク質や分子が進化し、新しい機能を獲得する過程で、シャペロニンが活躍していた可能性は大いにあるでしょう。私はシャペロニンというナノレベルの分子から生命進化の謎に迫りたいと思っています」

シャペロニン複合体の立体構造。楕円形の構造体の内部に2つの空洞があるのがわかる

分子の結合に伴う熱量変化を検出する装置「等温滴定型カロリメトリー」。他にも研究室には最先端の分析機器がそろう

実験をする学生を指導する小池教授。研究室には女子学生も多数在籍している

神奈川工科大学

社会で必要な力を効率よく養うPBL教育

神奈川工科大学の教育の特徴は、さまざまな能力の育成に力を入れ実践していることです。具体的には、PBL(Project-Based Learning)教育を早くから取り入れ、社会で活躍する上で必要となる能力をより効果的に身につけることができる「ユニットプログラム」を実施。従来の1科目の時間の2~4倍を充てています。

自信をつける教育で「考え、行動する人材」を育成

開学以来重視している卒業研究によって、身につけてきた能力に磨きをかけることで、「このように考えることができるようになった」、あるいは「このように対応することができるようになった」と皆さんも実感できることでしょう。神奈川工科大学は、学生が社会で活躍する人材に成長していくことをめざします。

学部学科

■ 工学部:機械工学科(機械工学コース/航空宇宙学コース)/電気電子情報工学科/応用化学科  ■ 創造工学部:自動車システム開発工学科/ロボット・メカトロニクス学科/ホームエレクトロニクス開発学科  ■ 応用バイオ科学部:応用バイオ科学科(応用バイオコース/生命科学コース) ■ 情報学部:情報工学科/情報ネットワーク・コミュニケーション学科/情報メディア学科 ■ 健康医療科学部:看護学科/管理栄養学科/臨床工学科

主な就職実績(過去5年間)

厚木市立病院、ALSOKグループ、アルファシステムズ、NSD、海老名総合病院、小田急電鉄、関電工、紀文食品、協和エクシオ、シャープ、スリーボンド、セガ、ソフトバンク、東海旅客鉄道、DTS、東芝プラント、東プレ、日産自動車、日本コムシス、バンダイナムコスタジオ、東日本旅客鉄道、富士通、ホーチキ、本田技研工業、雪国まいたけ、わかもと製薬 ほか(※2021年3月卒)

お問い合わせ先

〒243-0292 神奈川県厚木市下荻野1030
企画入学課 TEL:046-291-3002