Professor

玉利誠

令和健康科学大学

リハビリテーション学部 理学療法学科 教授
脳科学/リハビリテーション科学

医学と工学の連携――
最新テクノロジーをリハビリテーション分野に活かす

ニューロメカニクスの観点から
脳損傷後の症状や回復を研究

 厚生労働省の発表(平成26年患者調査の概況)によると、日本における脳血管疾患の総患者数は111万5,000人。そして、脳卒中を発症する人は年間29万人にものぼる。急性期から回復したとしても手足の麻痺や会話ができないなど、後遺症を抱えるケースが少なくない。そうした人たちの社会復帰に欠かせないのがリハビリテーションだ。令和健康科学大学の玉利誠教授は、ニューロメカニクスの観点から脳卒中患者のリハビリテーションについて研究している。

 ニューロメカニクスとは、ニューロサイエンス(神経科学)とバイオメカニクス(生体力学)のふたつを融合させて身体運動のメカニズムを研究する比較的新しい学問の領域だ。

「ニューロサイエンスの観点からは、脳卒中患者の脳画像をコンピュータで解析し、身体運動に関係する神経がどのくらい損傷しているか、構造的および機能的な視点から探ります。そして、バイオメカニクスの観点からは、三次元動作解析装置を用いて脳卒中患者の身体運動の特徴を分析します」

 玉利教授の主な研究テーマは、「脳の損傷と症状の関係」「回復に関する予後(治療経過)予測」「テクノロジーを活かしたリハビリテーション法」の3つだ。脳卒中患者の身体機能の回復にはリハビリテーションが欠かせない。脳画像をコンピュータで解析できるようになり、脳とリハビリテーションの複雑な関係性が見えてきた。

「これまでの研究により、脳卒中で損傷した領域やその程度が身体機能に密接に関係することはわかっています。また、脳卒中後にリハビリテーションを行うことにより、損傷した領域が担当していた機能をその他の損傷していない領域が代償するようになり、身体機能が回復することもわかってきました。しかし、脳画像をコンピュータでより詳細に解析してみると、小さな脳損傷にもかかわらず身体機能の回復が不十分なケースや、反対に、大きな脳損傷にもかかわらず身体機能が十分に回復するケースもあります。脳卒中後のリハビリテーションと脳の回復の関係はとても複雑です」

AIや最新テクノロジーを用い、
新たなリハビリテーションを創造する

ビッグデータを活用し、
機械学習による予後予測を推進

 脳卒中後、症状がどのくらい回復するかという予後予測は、患者本人や家族にとってはとても重要なことである。なぜなら、回復する程度や回復に要する期間の見込みが事前にわかれば、その後の社会生活のプランが立てやすいからだ。しかし、脳卒中後の予後の予測は簡単ではない。そこで玉利教授が取り組んでいるのが、AIを用いた予後予測だ。膨大な脳卒中患者の脳画像や身体機能のデータを発症から退院まで追跡し、そのデータを機械学習させることによって、より正確な予後予測に役立てようとしている。

「リハビリテーションによって患者さんが回復する程度は、脳の損傷程度や患者さんの年齢、1日あたりのリハビリテーション時間、担当するセラピストのスキルや経験など、さまざまな因子に影響されます。特に数か月もかけてリハビリテーションが行われる脳卒中の場合、予後予測が非常に難しいのが現状です。しかし、脳画像を含めた膨大なビッグデータを解析することにより、予後予測の精度が高まる可能性はあると考えています」

医工連携が
新たなリハビリテーションを創造する

 玉利教授は、脳卒中患者の麻痺の回復や歩行支援を目的としたロボットや装具の開発などにも携わっており、最新の工学技術を積極的に活用することで脳卒中患者のリハビリテーションは大きく変わっていくと言う。

「例えば、脳卒中の後遺症に『半側空間無視』という病態があります。空間の左右いずれか半分に注意が向かず、生活に困難をきたすものです。半側空間無視の有無を検査するこれまでの方法は、紙に描かれた直線の中央に印をつけてもらう(半側空間無視があれば印が左右に偏る)ものでしたが、紙面上の検査では問題が見つからないのに、生活上では明らかに半側空間無視が認められることもありました。しかし、ヘッドマウントディスプレイやVRを用いて没入感の高い検査を開発することにより、問題の見落としを減らすことができるようになっています」

 日本がめざすSociety 5.0は、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムによって開かれる。リハビリテーションの世界においても、患者データの収集・蓄積・分析・活用が不可欠で、最新の工学技術を応用することにより、それはさらに発展する。

「医工連携の推進は、新たなリハビリテーションを創造し、病気や怪我の後遺症を抱える多くの患者さんを救う手立てとなると考えています。そのために、研究を通した科学的な根拠を提示することで、研究という立場から医療従事者としての役目を果たしたいと思っています」

脳内の水分子の拡散現象を解析して神経線維を仮想的に描出し、神経線維がどの程度損傷しているか評価する。

脳内の血液動態を解析することにより、脳領域間の機能的な結合状態を評価する。

身体運動を三次元解析することにより、正常から逸脱した運動特徴を評価する。

令和健康科学大学

技術・知識・愛。3つの能力を修得した医療専門職を育成

2022年4月に福岡県福岡市に開学した令和健康科学大学は、看護・リハビリを通して「人間の健康」を科学的に教育し、研究する4年制大学です。建学の精神には「手には技術、頭には知識、患者様には愛を」を定めています。高度医療の提供と先進医療の導入を図りつつ、卓越した技術・技能を修得すること。地域医療の質の向上とともに各専門領域を深化させるための知識を修得すること。そして、高い職業倫理をもって患者様に寄り添う豊かな人間性を修得すること。これら3つの能力を総合的に身につけた医療専門職の人材を育成します。

最先端の施設・設備と現代のニーズに即したカリキュラム

医療現場を再現したような教室や、最新の医療機器がそろう施設など、進化し続ける医療業界に見合った環境を整えているのは、新設校ならではの魅力です。また、チーム医療の中核を担う人材を育成する専門職連携教育(IPE)やICT教育など、現代のニーズに即した高い専門性と柔軟性を育成するカリキュラムを整備。全国27の系列病院と7つの専門学校を運営する「巨樹の会」のネットワークも、病院実習から就職・卒業後のキャリアアップまで手厚く支えます。

学部学科

■ 看護学部:看護学科 ■ リハビリテーション学部:理学療法学科/作業療法学科

取得可能資格

看護師国家試験受験資格、理学療法士国家試験受験資格、作業療法士国家試験受験資格

将来の進路イメージ

医療機関(総合病院、一般病院、リハビリテーション病院、整形外科・精神科・神経科病院など)、老人保健施設、デイケア・デイサービス、訪問看護・リハビリ、特別養護老人ホーム、肢体不自由児施設、行政・研究機関、スポーツ機関(プロスポーツ団体など)、福祉施設(授産所・作業所) ほか

お問い合わせ先

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