Professor

馬込大貴

駒澤大学

医療健康科学部 診療放射線技術科学科 准教授
放射線科学/医療ビッグデータ解析

AIを駆使した予測システムで
放射線治療の個別最適化を実現

医療ビッグデータを
放射線治療に役立てる

 Radiomics-レディオミクス-。ラジオのヒット曲を集めたものではない。医療分野の新たな研究キーワードである。Radiology(放射線医学)とOmics(網羅的分析)を組み合わせた造語で、大量のデータを放射線治療に役立てる研究領域と考えていいだろう。

 このRadiomicsに関するテーマに取り組む研究者が、文系のイメージが強い駒澤大学にいる。医療健康科学部診療放射線技術科学科の馬込大貴准教授だ。

「大量の医療画像データを用いて、患者の予後(治療経過)を予測するシステムを開発しています。AI(人工知能)を医療に応用する研究です。対象となるのは、がんの放射線治療の分野です。私自身、医学物理士、診療放射線技師として、医療現場に携わってきた経験を活かして、臨床で役立つ研究に取り組んでいます」

 現状では、がんの診断が下され、ステージが決まると標準的な治療がすべての患者に等しく行われる。しかし、体格も違えば、持病も違う患者にとって、標準的な治療が最適であるとは言いがたい。例えば、放射線治療であれば、放射線量を調整することで、患者の負担を軽減できる可能性もあるという。

「目指すのは治療の個別最適化です。AIを用いることで、この課題を解決できると考えています。研究では、X線やMRI(磁気共鳴画像)の診断で入手した大量の医療画像をAIに入力し、網羅的に分析を行います。腫瘍の大きさ、丸さ、ギザギザの具合などによって、予後にどのような傾向があるのか定量的に判断できるようになります。技術の進歩により、人間の医師を超える診断能力を持つAIが実現されつつあります。今後はAIと医師が協力して、患者の診断や治療を行う未来がやってくるでしょう」

AIと医師が協力して、患者の診断や
治療を行う未来が必ずやってくる!

バーチャル空間で
放射線治療の予後を予測

 画像診断の特長は、患部の一部を採取して行う「生検」をしなくて済むこと。患者の負担が少ないだけでなく、脳腫瘍など生検が難しいケースでも利用できる。さらに、血液や呼気を使った検査では難しい、詳細な患部の特定も可能になる。放射線治療の場合、腫瘍のどの部分に放射線を当てるかによって効果が変わることもあるだけに、その有用性は大きい。

 AI画像診断の未来に期待がかかる一方、まだまだ課題もある。その代表例が、医療画像データの入手が難しいこと。当然ながら、腫瘍の診断画像は、パンケーキやかわいい猫の画像のようにSNSに大量にアップされることはない。そこで、より少ないデータから予後を予測する方法が求められる。馬込准教授が注目したのが、近年話題の「バーチャル空間」だ。

「がんの放射線治療の効果がどうなるか予測するバーチャル臨床試験の研究も進んでいます。患者さんから提供を受けた腫瘍の画像をAIに入力すると、どのくらいの期間、どのような放射線治療をすると、どういった効果が得られるかという予測ができます。もちろん、まだまだAIの予測通りになったというエビデンスが足りません。コツコツとデータを集めるのが、研究者としての踏ん張りどころです」

数学や物理学の知識を
医療の世界で活かしたい

 小さい頃から医療に携わる仕事がしたいと考えていた馬込准教授は、高校時代の得意科目であった数学や物理学の知識を医療分野で活かせる将来像を模索していた。そこで知ったのが、現在の医学物理士や診療放射線技師という仕事だった。医学物理士とは、物理学の知識を医学研究や医療現場で応用する専門職のこと。馬込准教授は、大学院の博士課程まで進み、医学物理士の資格を取得し、研究職へ進んだ。

「医療現場で目の前の患者さんを救う仕事は大変重要です。しかし、私は研究成果を全世界に発信し、世界中のより多くの人の命を救う研究という仕事に挑戦したいと思ったのです」

 研究目的は、あくまでも実際に患者の命を救うことだ。そのためには論文を発表するだけでなく、研究成果を医療現場に応用する道筋を描くことが必要になる。

「Radiomicsの高精度予測システムを医療現場に実装するのが私の目標です。医療現場と工学研究の現場を知る経験を活かして、両者の『架け橋』の役割を担いたいと考えています」

駒澤大学の学内には、医療機器の設計・製造の先進企業「バリアン・メディカルシステムズ」との産学連携で運用する放射線治療のトレーニング施設がある

放射線治療機器の制御を実機で学べるほか、企業向けセミナーなども開催されている

AIを使って仮想的に放射線治療のシミュレーションを行う

駒澤大学

2022年秋に駒沢キャンパスにオープンする新図書館

診療放射線技術科学科で「診療放射線技師」を育成

駒澤大学は、7学部17学科を擁する総合大学です。文系の印象が強い大学ですが、理工系の医療健康科学部もあります。同学部の診療放射線技術科学科では、「診療放射線技師」を育成するコースを用意しています。国家試験対策だけでなく、本格的な研究環境も整っています。学内には、医療機器メーカー「バリアン・メディカルシステムズ」と共同で運用する本格的な放射線治療のトレーニング施設もあります。卒業生は、全国の医療機関で診療放射線技師として活躍しています。

「データサイエンス・AI教育プログラム」がスタート

2022年度から全学部を対象に、「データサイエンス・AI 教育プログラム」がスタートします。1年次から「データサイエンス・AI 入門」「数学の基礎」「確率・統計学入門・発展」「プログラミング入門・初級」などの授業を履修できます。さらに深く学びたい学生を対象にした演習なども各学部で用意しています。

学部学科

■ 仏教学部:禅学科/仏教学科 ■ 文学部:国文学科/英米文学科/地理学科/歴史学科/社会学科/心理学科 ■ 経済学部:経済学科/商学科/現代応用経済学科 ■ 法学部:法律学科/政治学科 ■ 経営学部:経営学科/市場戦略学科 ■ 医療健康科学部:診療放射線技術科学科 ■ グローバル・メディア・スタディーズ学部:グローバル・メディア学科

主な就職実績(過去2年間)

国立病院機構、国立がん研究センター中央病院、国立国際医療研究センター、地域医療機能推進機構(JCHO)、神奈川県立がんセンター、東京大学医学部附属病院、慶應義塾大学病院、埼玉医科大学病院、聖マリアンナ医科大学病院、順天堂大学医学部附属浦安病院、日本医科大学附属病院、東京女子医科大学病院、埼玉県立病院機構、大森赤十字病院 ほか

お問い合わせ先

〒154-8525 東京都世田谷区駒沢1-23-1
入学センター TEL:03-3418-9048