Professor

井深章子

神奈川大学

理学部 生物科学科 教授
(2023年4月より化学生命学部に所属)
構造生物学/酵素学
※2023年4月開設

アラニンラセマーゼの立体構造

タンパク質の立体構造の機能美を
化粧品や医薬品の開発に役立てる!

タンパク質の一種である
酵素のメカニズムを解明

 酵素サプリ、酵素風呂、酵素ダイエット……インターネット上では、酵素を冠したさまざまな用語を見かける。そもそも酵素とは何か――。「何かを分解する物質?」くらいの理解の人も多いだろう。酵素は食べ物の分解・消化はもちろん、体に必要な物質の合成なども担うタンパク質で、体内のさまざまな化学反応を促進する「触媒」のはたらきをしている。酵素は動物や植物の中にもたくさんの種類が存在し、それぞれが特定の機能を担っていることもわかっている。神奈川大学理学部生物科学科の井深章子教授は、酵素をはじめとするタンパク質の構造を解析し、その役割や作用のメカニズムを研究している。

「細菌による感染症に効くペニシリンなどの抗生物質は、最初効果があっても次第に効かなくなることがあります。理由は薬剤耐性菌の出現です。何が起こっているかというと細菌の細胞内で産生されたβ-ラクタマーゼという酵素が、抗生物質を分解しているのです。そこで私はβ-ラクタマーゼを対象にX線結晶構造解析などを行い、酵素の薬剤分解メカニズムを解明しています。これは研究の一例で、他にもさまざまなタンパク質の構造を調べています。これは構造生物学と呼ばれる分野です」

 井深教授が研究で用いるのは、三次元構造解析という手法だ。ナノスケールの分子をデジタルデータで立体化し、その構造や機能を細かく調べていく。ひも状、らせん状のカラフルなイメージが重なり合う構造解析のイメージ画像は、どこか神秘的な魅力がある。

「実はタンパク質の立体構造の美しさに惹かれて研究を続けているところもあります。さまざまな形をした分子が規則的に配置され、特定の機能を果たしている。例えるなら、精密機械のようなものです。複雑な構造を理解して、人工酵素をデザインするのが私の目標です」

薬剤分解酵素β-ラクタマーゼの構造

複雑な分子メカニズムを解析して
人工酵素をデザインするのが目標

乳酸菌の細胞壁をつくる
「D-アラニン」の可能性

 井深教授が最近注目しているのは、乳酸菌などの細胞内に存在する「アラニン」と呼ばれるアミノ酸だ。アミノ酸は、タンパク質の構成要素で、L-アミノ酸とD-アミノ酸に分類される。ほとんどはL-アミノ酸で、D-アミノ酸は少量しか存在しない。そのため長い間、D-アミノ酸の機能は詳しく調べられてこなかった。ところが最近、脳内のシグナル因子の役割を担うなど、D-アミノ酸が重要な機能を果たしていることが明らかになってきた。アラニンのD-アミノ酸にあたる「D-アラニン」にも注目すべき機能があると井深教授は期待している。

「D-アラニンは、乳酸菌の細胞壁を構成するだけでなく、D-アラニンを生産する酵素の活性を制御するはたらきがあることがわかってきました。そこで私はD-アラニンの合成に関わるアラニンラセマーゼという酵素の構造解析をして、乳酸菌の中でどのような機能を果たしているのか詳しく調べています。D-アミノ酸に関する新たな発見があれば、他の微生物の構造理解に応用できる可能性があります」

酵素研究は環境分野に
貢献できる可能性も!

 井深教授が酵素という研究テーマと出合ったのは、学生時代のこと。「酵素学」という学問分野を知り、大学院の博士課程まで酵素の研究に没頭した。そして、分子構造解析の技術と出合う。それから技術が急速に進歩し、さまざまなタンパク質やアミノ酸の機能が構造解析で明らかになってきた。

 乳酸菌に含まれるD-アラニンの研究成果は、機能性食品の開発につながる可能性もある。D-アラニンには保湿効果があることもわかっており、大手化粧品メーカーも注目している。D-アラニンを活用する上で、これをつくり出す酵素の構造理解も不可欠だ。井深教授が目指す「人工酵素のデザイン」が実現できれば、さまざまな研究を加速させることになる。

「酵素の研究は、食品や化粧品の開発だけでなく、医療分野とも相性がいいと思っています。また、有害物質を分解するなどの領域で、環境分野に貢献できる可能性もあるでしょう。2023年4月から、神奈川大学化学生命学部での新たな研究生活がスタートします。酵素をはじめとするタンパク質の立体構造を理解して、その機能美を化学製品や医薬品の研究開発に応用できればと思っています」

アラニンラセマーゼの活性中心(実際に化学反応が起こる場所)の構造。アミノ酸残基だけでなく、結合した補酵素や水分子も確認できる

アラニンラセマーゼの触媒する化学反応。生物学だけでなく、化学の詳しい知識も必要だ

X線回折データを収集する高エネルギー加速器研究機構(KEK)の内部。外部研究機関で実験を行うこともある

神奈川大学

文系3学部と理工系5学部が集結する横浜キャンパス

文理11学部が横浜エリアに集結。進化を続ける学修環境

神奈川大学は、文系・理工系11学部(2023年度予定)を擁し、全国から学生が集う総合大学です。2021年4月、みなとみらいキャンパスを開設。2023年4月には、理学部(神奈川県平塚市から移転)と工学部を改編し、横浜キャンパスに化学生命学部と情報学部を新設します。これにより、文・理11学部すべてが横浜エリアに集結します。最先端の装置が揃う研究棟やコンピュータ演習室、蔵書数150万冊以上の図書館をはじめ、快適な学修環境が整っています。

充実の給費生・奨学金制度

2023年度試験においては12月18日(日)に全国22会場で試験を実施する「給費生制度」(採用者には4年間で最大880万円給付)をはじめ、入学前に経済的支援を約束する「神奈川大学予約型奨学金」などの大学独自の給付型奨学金制度が充実。さらに、少人数教育や入学直後から始まるキャリア教育などで、一人ひとりの成長を全力でサポート。詳細は大学公式サイトをご確認ください。

学部学科

■ 法学部:法律学科/自治行政学科 ■ 経済学部:経済学科/現代ビジネス学科 ■ 経営学部:国際経営学科 ■ 外国語学部:英語英文学科/スペイン語学科/中国語学科 ■ 国際日本学部:国際文化交流学科/日本文化学科/歴史民俗学科 ■ 人間科学部:人間科学科 ■ 理学部:理学科(数学・物理・化学・生物・地球環境科学・総合理学コース) ■ 工学部:機械工学科/電気電子情報工学科/経営工学科/応用物理学科 ■ 化学生命学部:応用化学科/生命機能学科 ■ 情報学部:計算機科学科/システム数理学科/先端情報領域プログラム ■ 建築学部:建築学科(建築学系・都市生活学系)

※2023年4月開設

主な就職実績(2020年度)

厚生労働省、法務省、東京都庁、神奈川県庁、東京消防庁、警視庁、特許庁、横浜市役所、特別区人事委員会、神奈川県教育委員会、東京都教育委員会、資生堂、竹中工務店、住友林業、SUBARU、スズキ、日本電産、TDK、サイバーコム、みずほ銀行、東急電鉄、三菱マテリアル、清水建設、大成建設、ニトリ、大和ハウス工業 ほか

お問い合わせ先

〒221-8624 神奈川県横浜市神奈川区六角橋3-26-1
入試センター TEL:045-481-5857