Professor

安鍾賢

広島工業大学

工学部 知能機械工学科 助教
フィールドロボティクス/インテリジェントセンシング

水密容器やHULLと呼ばれる、海中の水圧に耐えるための容器

まだ見ぬ謎や可能性に満ちた海を
自律型の水中ロボットで探究する

人間の操作や監視がいらない
自律型の水中探査ロボット

 月や火星といった宇宙探査が活発だが、地球にも果てしない謎と可能性を秘めた場所がまだまだ存在している。それは、地表の約70%を占める海だ。石油やメタンハイドレートといった鉱物・エネルギー資源が眠り、生態が解明されていない未知の生物が存在している海の中。広島工業大学の安鍾賢(アン・ジョンヒョン)助教も、そんな海の神秘に魅せられた研究者のひとりである。ロボティクスの領域から、海という可能性にアプローチしている。

「海は我々の身近にありながらも、簡単には解明できない謎を多くはらんでいます。未開の地が残されている深海だけでなく、浅い海であっても気候や海流によって海洋生物の生育状態は異なり、地形も耐えず変化しています。こうした海中の調査や研究を人力で行うのは難しい。なぜなら、人間が潜れる深さには限界があり、長時間の活動も困難だからです。しかし、ロボットであれば、広範囲を長時間調査することができます。私は、人間がリアルタイムで操作しなくても、自律的に海中を動き回ることができるロボットを開発しています」

 このロボットは「AUV」と呼ばれる。Autonomous Underwater Vehicle(自律型無人潜水機)の頭文字をとった略称だ。安助教が開発するAUVはステンレスの骨組みに4つのスラスターが付き、そのスクリューによって前進/後退、方向転換を行うことができる。周囲を撮影するためのカメラや、海中で環境計測や障害物を察知して避けるためのソナー(超音波を使った物体検知装置)も装着されている。

「ケーブルにつないでリアルタイムで人間が操作するタイプの水中ロボットもありますが、AUVの特長は、2~3時間の連続動作が可能なリチウムイオンバッテリーを搭載し、基盤内に組み込まれたプログラムによって自律的に活動するところです。人間の操作や監視が不要なため、水産業などでの実用が期待されています」

深刻な漁業被害をもたらす大型クラゲを
自動で駆除するロボット開発が進行中

研究室ではハードウェア設計から
AIによる画像認識技術まで学べる

 人間に降りかかる多くの問題を解決してくれるのがロボットであり、それを生み出すのがロボット研究者の使命でもある――。

 安助教がAUVを使って解決に取り組んでいるのが、日本近海でクラゲが大量発生している問題だ。エチゼンクラゲなどの大型クラゲが大量に押し寄せることで、漁網を重みで破ったり、一緒に水揚げされる魚を傷つけたりするなど、深刻な漁業被害がもたらされているという。

「大型クラゲの大量発生は2000年代から問題になっていましたが、これまでは定置網など人間の力によって駆除が行われてきました。これをAUVで代用できるのではないか。そう思ったのが研究の始まりです。具体的には、クラゲの多い海域にAUVを投入し、ソナーや人工知能を用いた画像認識技術によってクラゲを検知、搭載したホースとプロペラでクラゲを吸引・粉砕する仕組みです。海を泳ぐ魚や、漂流するビニール袋などのゴミとも識別し、クラゲを検知して吸い込むことができます」

 開発過程で課題として立ちはだかったのは、クラゲを検知して吸引装置が起動するとある一方向に力が発生するため、それによって機体の姿勢が崩れてしまうこと。安定性がなくなると、うまくクラゲを吸い込むことができない。この問題に対処するために、大学内にあるプールで、実機を使って実験を何度も繰り返した。

「吸引によって下方向に力が発生しても、その傾きを内蔵のセンサで感知し、連動してスラスターを回転させることができれば姿勢の安定性は保たれます。『ロール・ピッチ・ヨー』とも表現される機体の姿勢と角度を、3次元的に制御するシステムを構築しています」

 この研究は科研費から約500万円の助成を受け、実用化に向けて開発が進行中。2024年度には瀬戸内海での実証実験を計画している。

 こうした最先端の研究は、安助教の研究室に所属する学生にとっても刺激が多い。水中ロボットの性能を競う大会で優勝や上位を独占するなど、全国レベルの研究に挑戦している。

「学生の研究テーマは、AUVのハードウェアの設計から、クラゲとビニール袋を見分ける画像認識技術、姿勢の安定制御の研究など多岐にわたります。ロボット開発におけるすべてのプロセスを学んでほしいのです。今後も学生とともに、人間の手の届かない環境を探究し、問題を解決するロボットの開発に取り組みたいです」

安助教の研究室で開発したクラゲを駆除するAUV。大学内にあるプールで実際に機体を動かし、改良を重ねた

センサからロボットの加速度を計測し、水中環境でロボットの姿勢を安定させる

2021年に神戸で開催された「テクノオーシャン2021 水中ロボット競技会」で、学生が製作したロボット「J.E.R.O.S.」と「M.I.R.O.C.A.」が、それぞれ優勝、準優勝に輝いた

広島工業大学

最先端の技術力と豊かな人間性を兼ね備えた、社会に貢献する技術者を育成

広島工業大学は「教育は愛なり」という建学の精神のもと、工学部・情報学部・環境学部・生命学部の4学部12学科を有する理工系大学です。「ものづくり」を通じて社会に貢献できる高い倫理観を持った技術者を育成しています。従来の専門力・人間力に加え、不透明な時代を切り拓くために必要な社会実践力を養成し、学生が能動的に学び成長できる環境を整備しています。

変化する時代に対応できる AI・データサイエンスの学び

IoTやAI 技術の急速な進化に伴い、新たな価値を生み出す人材育成を目的として、本学では「AI・データサイエンス関連科目」の全学必修化を2020年度からスタート。情報を利活用し、社会的価値を創造できる力を身につけた技術者育成を始めています。

学部学科

■ 工学部:電子情報工学科/電気システム工学科/機械システム工学科/知能機械工学科/環境土木工学科/建築工学科 ■ 情報学部:情報工学科/情報コミュニケーション学科 ■ 環境学部:建築デザイン学科/地球環境学科 ■ 生命学部:生体医工学科/食品生命科学科

就職先実績(2022年3月卒業生)

NTTドコモ、大林組、サタケ、清水建設、ゼンリン、大気社、高砂熱学工業、竹中工務店、中国電力、西日本旅客鉄道、日本製紙、日本設計、広島ガス、マツダ、リョービ、大阪大学( 特任研究員) 、大阪市立大学医学部附属病院、島根県庁、広島県庁、山口県庁 ほか

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