古賀紀江
関東学院大学
建築・環境学部 教授
建築計画/環境行動学
関東学院大学
建築・環境学部 教授
建築計画/環境行動学
人にとって“良い住まい”とは何だろうか? 間取りや部屋数が最適なこと、通勤・通学がしやすいこと、近くに便利な店舗や施設があること、自然災害に強いこと……。誰もが生活環境を選択するうえで譲れない条件を持っているはずだ。しかし、それらは建築を取り巻く要素のほんの一部分にすぎない。私たちの暮らしは、無数の要素の中で営まれている。
建築計画を専門とする関東学院大学の古賀紀江教授は、日常を取り囲む「環境」が私たちの暮らしに与える影響について研究を続けている。建築計画とは、建物をつくる時に何が必要か、どのように必要なのかを、室内、建物、地域、さらには社会全体を包括しながら明らかにする学問分野。古賀教授は特に、高齢者の住まいに関心を持って研究に取り組んできた。キーワードは「心と体の健康」。環境心理学の視点から社会と空間を読み解き、建築や都市デザインに対して有意義な知見を提示することが研究の主な目的である。
「研究の原点となったのは、大学院時代に始めた高齢者の居住環境を調査する取り組みでした。ひとり暮らしの高齢者を中心に、自宅を訪問してインタビューを実施。室内のレイアウトや部屋での過ごし方、周辺の地域環境などについて聞き取りを行う中で、対象者の人生にまで話が及ぶこともありました。それぞれの生き方や生活の工夫に触れた経験は、『健康に生きる』とはどういうことなのかを考えるきっかけを与えてくれました」
当時は、完全個室化された特別養護老人ホームが国内で初めて開設されたタイミングだった。新しい時代における高齢者施設のあり方を考えるために、聞き取りの成果が役立てられたのだという。大学院を修了し国立の研究機関で働き出した後も、高齢者へのインタビュー調査は続けられた。
「大学院時代と異なっていたのは、ご自宅を療養環境としている方々を対象としたことでした。多くの方が身体に不自由を抱えており、気軽に外に出かけることが難しい状況。ところが、これまで暮らしてきた街の様子を生き生きと語り出すことがあったんです。自宅にいながら、まるでその場に立っているかのように景色や思い出を話してくれました。実際にその環境に触れることができなくても、語ることによって世界を広げることができる。場所と記憶の密接な関係を強く実感し、建築における環境の重要性をあらためて認識した瞬間でした」
研究を進める中で新たに興味を抱いたのが、働く人々の環境だった。施設で過ごしているのは利用者だけではない。そこで働く職員たちの目線が抜け落ちていると気がついたことで、働きやすい施設の環境デザインにも視野を広げていったのだという。
古賀教授が大学院生時代に使用していたノート。部屋の間取りや家具の配置、聞き取りの内容などが詳細に記録されている
高齢期の住まいの「仕舞い」と転居に関する研究。新居への愛着は転居までの期間が十分あること、新居について考えた経験と関係する
高齢者の健康維持に資する環境のデザインを探る研究。運動量の多寡を知るため「姿勢」に着目しジェンダーによる傾向をみた
時代の流れや生活様式の変化とともに、居住環境や労働環境のあり方も変わっていく。記憶に新しいのは、新型コロナウイルスの感染拡大だろう。外出制限やリモートワークの推進など、未知の感染症は私たちの生活に大きな影響を及ぼした。ここでも古賀教授は高齢者施設に焦点を当て、影響が落ち着いた現在も施設で働く方々を対象としたパンデミック当時の「体験語り」による調査を継続している。
「コロナウイルスの感染拡大下の隔離体制の中で、普段通りのコミュニケーションの機会を持つことはとても難しかったようです。対応マニュアルはあるけれど、その情報をうまく共有することができなかったり、毎日のように変化する状況も重なり、利用者や職員のフラストレーションが蓄積されていきました。こうした体験談を通じて、情報がうまく流れることはスタッフの仕事だけでなく施設全体の生活の質にとっても大切なことかもしれないと気づきました。当時、現場で日々大変な体験をされた方々の記憶を記録として残すことも、研究の大きな役割だと考えています」
社会学や心理学など、多様な学問を横断した研究に取り組む中で見えてきたものもある。建築を学ぶうえで、数学や物理といったいわゆる「理系」の知識は欠かせない。しかし何より重要なのは、理系分野の本質――客観性と再現性を重視した科学的分析で、社会問題の解決をめざすことだと古賀教授は語る。
「建築は人々を幸せにするものです。建てることで周辺の環境が悪化するようなことがあってはなりません。学際的な学問分野である建築計画は、人と環境の関係を考える視点を育んでくれます。今後も一人ひとりの言葉に耳を傾け、暮らしの様子を丁寧に紐解くことで、より良い住まいや施設のあり方を問い続けたいと思います」

関東学院大学では、これからの社会で生きる力を身につけるため、「社会連携教育」を推進しています。世の中の課題は、教室の中ではなく、社会にあります。教室の中で研究者でもある大学教授から「知識」や「理論」を学び、企業や自治体、地域と連携しながら社会をフィールドに「実践」することで、社会課題を発見し、解決するプロセスを身につけていきます。また、社会と連携した実践的な学びの中で「自分に足りない知識やスキル」に気づき、教室に戻ってさらに学びを深めていくための動機にも結びついています。
2026年、理工学部を改組・改編し、12番目の学部として情報学部を開設。理系学部は理工学部、情報学部、建築・環境学部の3学部体制へと発展します。Society 5.0の実現に向けて、ディジタルトランスフォーメンション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)といった未来社会の課題を見据えた教育を展開し、持続可能な社会の構築に貢献できる人材を育成していきます。
■国際文化学部:国際文化学科(英語文化コース、グローバル歴史文化コース、多文化協働コース) ■社会学部:現代社会学科 ■法学部:法学科/地域創生学科 ■経済学部:経済学科 ■経営学部:経営学科 ■理工学部:理工学科(生命科学コース、数理・物理コース、応用化学コース、表面工学コース、先進機械コース、電気・電子コース、土木・都市防災コース) ■情報学部:情報学科 ■建築・環境学部:建築・環境学科 ■人間共生学部:コミュニケーション学科/共生デザイン学科 ■教育学部:こども発達学科 ■栄養学部:管理栄養学科 ■看護学部:看護学科
大和ハウス工業、鹿島建設、大林組、住友電設、清水建設、大成建設、住友林業、戸田建設、五洋建 設、西松建設、長谷工コーポレーション、日建設計、日揮、乃村工藝社、良品計画 ほか
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