栗原聡
金沢学院大学
情報工学部 情報工学科 教授(非常勤)
人工知能/複雑ネットワーク科学
金沢学院大学
情報工学部 情報工学科 教授(非常勤)
人工知能/複雑ネットワーク科学
ラジコンなどに使う「モーター」と「歯車」を想像してみよう。モーターは自ら動力を生み出すのに対し、歯車は外部からの力を受けて、はじめて回ることができる――。
「AIに依存する人は、歯車のような存在になっていくでしょう。歯車は自力では動けません。一方、AIを主体的に使いこなす人はモーターです。自分で動き、周囲を動かす力を持っている。AI時代に重要なのは、歯車になるのではなく、モーターになることなのです」
そう語るのは、人工知能学会会長で、現在は金沢学院大学情報工学部で非常勤の教授を務める栗原聡教授だ。AIは人間の能力を拡張する一方で、使い方を誤れば、「考える力」や「学ぶ力」を奪う可能性もある。生成AIが急速に普及するなかで、AI研究の第一人者である栗原教授には、どのような未来が見えているのだろうか。
「全員がAIに言われるがままに動くようになったら、非常に危うい社会になります。しかも怖いのは、それが誰かに強制されて起こるわけではないこと。AIは便利なので、人は自分の意思で使い始める。そして気づかないうちに、考えることをAIに預けてしまう。これは、ある意味では非常に巧妙な依存です。だからこそ、教育の問題として真剣に考える必要があります」
テクノロジーによって、人間の能力は絶えず変化してきた。電卓が登場したことで、暗算する力は低下した。ワープロが普及したことで、漢字を思い出せない人も増えた。しかし同時に、人間は電卓によってより高度な計算ができるようになり、コンピュータによってより複雑な仕事ができるようになった。つまり、テクノロジーによって一部の能力が下がっても、全体としては人間の可能性が広がってきたのだ。
「ただし、これまでのツールとAIは別で考える必要があります。AIに頼りすぎることで、『失ってはいけない最低限の能力』を手放してしまう可能性があるからです。例えば、会話する力、相手の言葉を理解する力、自分の考えを組み立てる力、最低限の論理的思考力……こうした力が失われると、人はAIなしでは判断できなくなってしまう。多くの人が、自分で考えず、AIの出す答えに従うだけになれば、民主主義の基盤が揺らぎかねません」
栗原教授は、かつて企業の研究所に勤務していた時代に、若手社員が会議の議事録を作成する現場を目にしていた。「こんな作業に何の意味があるのか」と思うこともあったという。ただ、振り返ると、議事録を書くこと自体が重要な教育だったことに気づかされたという。
「会議で誰が何を発言したかを整理し、次の会議で使える資料にする。そこには、文脈を理解する力、状況を把握する力、複数の意見をひとつの物語にまとめる力が必要です。現在は生成AIによって、議事録作成を自動化できるようになりました。ただ、何でもAIに依存してしまうと本来その作業を通じて身につくはずだった力まで失われてしまうのです」
だからこそ、栗原教授は小中学校の段階でのAI使用をかなり慎重に考えるべきだと力説する。むしろ、完全に禁止してもいいと考えている。小中学校時代は、人間としての必須な能力を育む大切な時期にあたる。友達と遊び、けんかをして、仲直りする。自分の言葉で考え、相手の反応を見ながら伝え方を工夫する。そうした経験を通じて、コミュニケーション能力や文脈を理解する力が育っていくという。
「人間は、デジタルデータだけで学んでいるわけではありません。目で見て、耳で聞いて、手で触って、体を動かし、周囲の空気や匂いも含めて、五感を通じて学んでいます。人間は、実に多様な情報を統合しながら、効率よく学んでいるのです。だからこそ、子どもの時期にAIへ過度に依存することは危険です。自分で考える時間が失われることで、人間としての必須な能力が育ちにくくなるのです」
とはいえ、AIを使うこと自体が悪いわけではない。大事なのは使い方だ。「これについて教えて!」とAIを教師のように使うのではなく、自分の思考を深める相手として使う。自分の仮説をぶつけ、抜けている視点を確認し、別の可能性を探る。そのように使えば、AIは非常に強力なツールになるという。
現在、金沢学院大学で教壇に立つ栗原教授は、地方のものづくりの現場がAIやソフトウェアの登場によって、勢いを失っているのを感じるという。日本は本来、ものづくりで発展してきた国だ。地方の中小企業には、今も優れた技術や現場の知恵が豊富にある。AI時代の今こそ、その潜在能力が強みになると考えている。
「人間と動物を分けたのは、道具を使う能力でした。石器をつくり、農耕具を生み出すことで、人間は文明を発展させてきました。今でも私たちは、“もの”がなければ生きられません。AIやソフトウェアが重要になっても、ものづくりの価値が下がるわけではありません。むしろ、AI時代だからこそ、現実の世界で何かをつくり、試し、失敗し、改善する力が重要になります。実際の社会や地域の課題に向き合い、手を動かして解決していく。そうした経験が、人間の主体性を育てます。日本のものづくりはまだまだ大きな可能性を持っています。AIと現場の知恵を結びつけて新しい価値を生み出す。そういう人材を金沢の地から輩出したいですね」
AIが東京大学の入試を突破する現在、正解を早く出すだけなら人間はAIには勝てないだろう。しかし、何を問うべきか、何に挑戦すべきか、どのような価値を生み出すべきかを考えるのは人間だ。そこには、好奇心や問題意識、そして自分で動く力が必要になる。AIは強力な道具だが、道具に使われる側になってはいけない。
「AIに依存するのではなく、AIを使って自分の可能性を高める。これからの若者に求められるのは、まさに『モーター』になる力です。自分で問いを立て、自分で動き、周囲を動かしていく。その力を育てることが、AI時代の教育にとって最も重要だと考えています」

慶應義塾大学理工学部で研究活動に取り組みながら、非常勤の教授として金沢学院大学情報工学部でも授業を行っている。

AIやデータサイエンスといった最新鋭の情報技術の進歩に注目が集まる中、金沢学院大学では、初の理系学部となる情報工学部情報工学科を開設しました。近年増加する文理融合型の情報系学部とは異なり、注目される最新技術だけでなく、その土台となるハードウェア・ソフトウェアの基礎を深く理解する学びが特徴で、情報処理学会が推奨するコンピュータ科学、コンピュータエンジニアリング、データサイエンスの3つのカリキュラム標準に準じて科目を構成しています。
1年次で数学や物理、コンピュータ科学の基礎を身につけた後、2年次のコース選択では「コンピュータサイエンスコース」と「データサイエンスコース」の2コースを設置。コンピュータサイエンスコースでは、組込み制御系や情報ネットワークの設計・開発、運用を担う人材を育成し、データサイエンスコースではビッグデータの収集・分析やAI技術を深く理解していきます。教授陣には、日本の情報分野の進化を支えてきた研究者である学部長の髙木直史教授をはじめ、最先端分野の研究と教育を行ってきた最高水準の教育者が集結。あらゆる業界・業種でニーズが高まるデジタル人材をめざすだけでなく、高校「情報」と中学・高校「数学」の教員免許の取得も可能です。
■情報工学部:情報工学科(コンピュータサイエンスコース、データサイエンスコース) ■経済学部:経済学科(理論・政策分析専攻、現代経済専攻)/経済情報学科[2027年4月開設予定]/経営学科(戦略・マーケティング専攻、アントレプレナーシップ専攻、簿記会計専攻) ■文学部:文学科(日本文学専攻、英米文学専攻、歴史学・考古学専攻、心理学専攻) ■教育学部:教育学科(小学校教諭専攻、中学校・高校英語教諭専攻、幼稚園 教諭・保育士専攻) ■芸術学部:芸術学科(絵画専攻、造形専攻、ビジュアルデザイン専攻、デザイン工学専攻、映像メディア専攻、演劇専攻) ■栄養学部:栄養学科 ■スポーツ科学部:スポーツ科学科(アスリート・指導員養成専攻、体育教員養成専攻、公安・公務員養成専攻、スポーツビジネス専攻)
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