Professor

増山純二

令和健康科学大学

看護学部看護学科教授 臨床シミュレーションセンター長
救急看護学/教育工学

インストラクショナルデザインに
もとづく新しい教育手法を構築する

認知負荷理論を踏まえた
教育カリキュラムの構築

 シミュレーション学習(SBL : Simulation-based Learning)は、学習環境のリアリティを高めれば高めるほど学習効果が高いとされている。しかし、リアリティを追い求めすぎることでかえってワーキングメモリー(作業記憶)の容量がオーバーし、認知過負荷状態に陥ってしまい逆に学習効果が下がってしまう。令和健康科学大学の増山純二教授は、認知負荷理論を踏まえたインストラクショナルデザインを研究している。

 インストラクショナルデザインとは、教育活動の効果・効率・魅力を高める手法についてシステム的なアプローチをベースに設計し、PDCAサイクルにより魅力的な教育カリキュラムを構築していく考え方だ。

「SBLでは、受講生によりますが、リアリティが高すぎた場合、インプットされる情報量が多くなると認知過負荷状態に陥ります。10人分の電話番号を一気に言われても覚えられないのと同じです。特に初学者に対しては、ワーキングメモリーの容量の中で、リアリティの高さと認知負荷のバランスを図りながら授業を設計することが重要なのです」

 増山教授がめざしているのは、SBLを含めた臨床実践中心型カリキュラムのデザイン開発。センター長を務める臨床シミュレーションセンターを活用し、看護師・理学療法士・作業療法士など臨床における実践スキルベースの教育の質を上げていく。並行して思考力や問題解決能力を持った学生を育てていくことも目的として掲げている。

「入学したばかりの1年生がいきなり臨床シミュレーションセンターに入っても何もできないでしょう。最初は手取り足取り支援してあげなければなりません。そこから徐々に支援を外していけば認知が徐々に上がっていきます。そのシミュレーション設計を行うなかで、最初にどういった支援が必要なのか、その後どのタイミングで支援を外していくか、このプロセスが非常に重要であり、ある程度認知負荷をかけながら処理能力を上げていくプログラム設計が必要です」

シミュレーション学習を基礎教育に
組み込んだカリキュラムを設計

救急看護の現場で実感した
シミュレーション学習方略の重要性

「私の専門は救急看護です。教員としては、学部教育の看護基礎領域に加え、救急看護の専門性を高めることを目的に、看護師を対象にした6か月から1年間の教育課程も担当していました。そこでSBLに関する研究を始めました。看護の専門性を高めることができるSBLの効果として、10年間、研究を重ねてきました。SBLは、知識、技術、態度の統合ができる教材ですが、そこが落とし穴になっていることに気づきました」

 インプットされた知識、技術の統合として、SBLを行い、患者の情報から実践につなぐ根拠として、問題解決の認知構造を組み立てながら、これまで学習してきたことを活かす形で、振り返り学習を行う。ところがその時は理解し実践できていても、その後提出されたレポートからは学習効果が見えてこないという課題が浮き彫りになったのだ。

「つまり、SBLで統合するのではなく、講義で教授している内容が臨床のどのような場面でどのように活用され、実践の根拠として繋がっているかを明確にしながら学習させることが重要となります。宣言的知識(言葉で説明できる知識)だけではなく、手続き的知識(実行できる能力)を講義の中でも培わせる必要があります。そのため、症例基盤型学習(CBL ; Case-based learning)を基本とした講義、演習、そして、手続き的知識をさらに深めていく学習としてSBLを行うことで、学習の効果に繋げることができます」

インストラクショナルデザインで
大学教育の変革をめざしたい

 日本の看護系大学のカリキュラムは、文科省が示す、「看護学教育モデル・コア・カリキュラム」を参考に組まれる。基本的にはインプットを中心としスモールステップで成長させ、アウトプット(演習、実習)で統合させていくイメージだ。増山教授はそのカリキュラムの中で、1年次からCBLで授業を行い、演習、SBL、実習での学習において、足場(学習支援)を固めていくのではなく、足場を外していく学習方略を構築することで、自律性の高い新人看護師を増やせると考えている。

「通常は1年次、2年次では部分タスクの授業や看護技術の演習を行い、2年次、3年次の演習、3年次、4年次の実習で知識、技術を統合(全体タスク)させていくカリキュラムです。しかし、本学では、臨床実践力の養成を目的に大学4年間を通して、臨床実践のタスクを学習タスク(全体タスク)とし、臨床体験の疑似体験ができる課題中心型の学習を行っています。看護師に必要な知識、技術、態度を身につけていく独自の教材を開発し、「臨床実践中心型カリキュラム」を構築しています。そのカリキュラムの中で、インストラクショナルデザイン原則を開発することで、看護基礎教育におけるSBLの位置付けや学習方略が明確になると考えています。3〜4年かけてインストラクショナルデザインの定期的な改善のサイクルを行いながら、検証を繰り返してデザイン原則を提案していく予定です」

実際のシナリオの中で、ガイドを入れながら看護実践の支援を行う

シナリオの最後で、教員へ報告。その際にフィードバックも実施している

シナリオ終了後に、複数の学生と教員で、録画された看護実践を見ながら振り返り学習を行う

令和健康科学大学

技術・知識・愛。3つの能力を修得した医療専門職を育成

2022年4月に福岡県福岡市に開学した令和健康科学大学は、看護・リハビリを通して「人間の健康」を科学的に教育し、研究する4年制大学です。建学の精神には「手には技術、頭には知識、患者様には愛を」を定めています。高度医療の提供と先進医療の導入を図りつつ、卓越した技術・技能を修得すること。地域医療の質の向上とともに各専門領域を深化させるための知識を修得すること。そして、高い職業倫理をもって患者様に寄り添う豊かな人間性を修得すること。これら3つの能力を総合的に身につけた医療専門職の人材を育成します。

最先端の施設・設備と現代のニーズに即したカリキュラム

医療現場を再現したような教室や、最新の医療機器がそろう施設など、進化し続ける医療業界に見合った環境を整えているのは、新設校ならではの魅力です。また、チーム医療の中核を担う人材を育成する専門職連携教育(IPE)やICT教育など、現代のニーズに即した高い専門性と柔軟性を育成するカリキュラムを整備。全国27の系列病院と7つの専門学校を運営する「巨樹の会」のネットワークも、病院実習から就職・卒業後のキャリアアップまで手厚く支えます。

学部学科

■看護学部:看護学科 ■リハビリテーション学部:理学療法学科/作業療法学科

取得可能資格

看護師国家試験受験資格、理学療法士国家試験受験資格、作業療法士国家試験受験資格

将来の進路イメージ

医療機関(総合病院、一般病院、リハビリテーション病院、整形外科・精神科・神経科病院など)、老人保健施設、デイケア・デイサービス、訪問看護・リハビリ、特別養護老人ホーム、肢体不自由児施設、行政・研究機関、スポーツ機関(プロスポーツ団体など)、福祉施設(授産所・作業所) ほか

お問い合わせ先

〒811-0213 福岡県福岡市東区和白丘2-1-12
TEL:092-607-6701