Professor

芥子育雄

福井工業大学

工学部 電気電子情報工学科 教授
生成AI
データサイエンス

生成AI やビッグデータを有効活用し
産業の優位性や社会貢献を実現する!

真にパーソナライズされた
観光プランを旅行客に提案

 何か知りたい物事があるとき、検索サイトではなく生成AIを用いる人も増えてきただろう。改めて、生成AIには何ができるのか。試しにAIチャットに聞いてみると、画像やテキストの自動生成、プログラミング支援、アイデア出しといった答えが返ってくる。

「生成AIはプロンプト(質問文や命令文)やシステムのアレンジ次第で非常に効果的なアウトプットを示してくれる技術ですが、その可能性の大きさに比べるとまだまだ実用的に使われていない分野が多くあります。私は生成AIを医療や観光、ビジネスに活用することで、産業の優位性や社会貢献を実現したいと思っているのです」

 福井工業大学工学部電気電子情報工学科の芥子育雄教授はそう語る。研究テーマのひとつが、福井県の観光DX実現をめざした生成AIの活用だ。2024年3月に北陸新幹線が開通し、地域活性化を見据えた観光事業の強化が図られている福井県。その一環で、福井県観光連盟では県内の約90か所の観光エリアと施設にQRコードを設置し、観光客からアンケートを収集している。訪問者の属性や旅行形態、移動手段、訪問場所などを回答する形式で、そのアンケートデータは6万件にも及ぶ。これを有効活用しない手はないと、芥子教授はふたつの機能の開発をめざした。

「ひとつは、旅行者に向けた観光プランのレコメンデーション機能です。一般的にChatGPTやGeminiといったAIチャットに『福井県の観光プランを教えてください』と入力すればそれらしい回答は示してくれます。しかし、福井県のニッチな観光情報や詳細な地域情報はインターネット上に十分な学習データが蓄積されていないこともあり、稀にAIがハルシネーションを起こすケースも見られます。ハルシネーションとは、嘘または誤解を招く情報を事実かのように生成してしまう現象のこと。非現実的なプランや架空の情報を提示するリスクがあるのです。これに対し、アンケートデータを常に参照することで、誤りの総数を29%削減することに成功しました。さらに、ユーザーの属性や旅行形態とアンケートデータ上の類似事例を結びつけることで、人気の観光スポットを回答するのではない、真にパーソナライズされたおすすめ観光プランを提案することも可能になりました。正確性と個別最適化については、さらなる精度の向上をめざしています」

福井県観光レコメンドシステムの構成本システムは、6万件の観光アンケートデータをVertexAIでベクトル化(数値配列に変換)し、BigQueryに格納。共通の生成AI基盤(Gemini)により2つの機能を実現:①観光者向け機能(チャットボット・登録ユーザ向けプラン生成)では類似データ検索によるRAG、②事業者向けアラート機能ではFew-shot学習を活用

生成AIの共通アプローチで
医療・観光・ビジネスの課題を同時解決

産学連携での研究を通して
生成AIの社会応用をめざす

 アンケートデータを用いたもうひとつの機能は、観光施設等の事業者向けのリアルタイムアラート。アンケートからネガティブなコメントを検知すると、その重大さに応じて即時改善の提案を通知してくれる仕組みだ。事業者は観光客の声から課題を素早く把握して改善に活かすことができるようになる。

 ここで強調しておくべきポイントは、このふたつの機能が共通するひとつの生成AI基盤によって実現されているところにある。ビッグデータから必要な情報を取り出して作成した詳細なプロンプトを生成AIに与えることで、高精度の回答が出てくるように構築されたシステムなのだ。

「実は他に取り組んでいる医療とビジネス分野の研究も、同じ生成AI活用アプローチを採用している。例えば、医療分野では富山大学附属病院との共同研究を実施し、同病院が保有する過去16年にわたる6万件超えの診断データを用いて診断支援システムを開発しました。このアプローチはそれほど汎用性が高いもので、生成AIはうまく活用することができれば、産業の課題解決や社会貢献のためのエンジンになります。目下の課題は、地方自治体や病院、企業と連携しながらの精度向上。実用化に向けて走り続けたいと思っています」

芥子教授の研究領域。生成AI(医療はGPT- 4、観光・ビジネスはGemini)に各分野のデータを組み合わせる共通手法で実証している

医療分野では24時間体制で心理的支援を行うケアボットの開発にも挑戦。福井県済生会病院にて臨床実験を実施した

ビジネス分野では、福井県坂井市の大手文具店(ホリタ文具)と共同研究を実施。実証実験ではメディア4社の取材を受け注目された

学生はどのような研究に取り組み、どんな進路を歩むのだろう?
上記で紹介した芥子育雄教授の研究室に所属するS・Kさんに話を聞きました。
Student Voice

S.Kさん

福井工業大学

工学部 電気電子工学科4年
(現 電気電子情報工学科)
芥子研究室
高知県立高知工業高等学校出身

AIやプログラミングの技術を活かして
社会に貢献するシステムエンジニアになりたい

観光プランに画像を紐づけ、
顧客の満足度向上をめざす

 卒業研究で取り組んでいるのは、観光分野での生成AIの活用です。これまで芥子教授や研究室の先輩たちが開発してきた観光プランのレコメンド機能を活かしながら、そのテキストの内容と観光地の画像を紐づけ、画像付きでプランを提示するシステムを付与するのが私の目標です。最近では海外の方も多く観光に訪れるようになりましたが、一般的には「福井県=恐竜」のイメージが大半を占めるのが現状。ただ私自身、大学入学と同時に地元の高知から福井に移住した身としては、まだまだおすすめしたいスポットがあります。画像があれば観光地の雰囲気が可視化され、よりユーザーの満足度を高められるのではないか。そうした志を持って、データ管理やシステム構築に取り組んでいるところです。福井県の観光プラン作成という、実例を用いて生成AIやデータ分析の技術を学べるところにやりがいを感じています。

技術力次第で社会を豊かに
できるのが情報分野の魅力

 私はもともと工業高校の出身で、社会に幅広く浸透しつつあるAIやデータサイエンスといった最先端技術を学びたいと思い福井工業大学に進学しました。大学のプログラムである海外語学研修と海外インターンシップにも興味があり、実際に1年次はアメリカへ留学し、3年次にはタイで企業インターンを経験することができました。異文化体験の中で主体性を身につける貴重な機会でした。

 大学の授業では、私が望んでいたとおりプログラミングや機械学習、画像認識、生成AIといったさまざまな最先端技術の活用方法を実際に手を動かしながら学ぶことができました。AIやデータサイエンス系の学びの魅力は、自分の技術力次第で世の中を大きく変えることも可能なところにあると思っています。すべて一から修得していくので難しい部分もありますが、実用的な授業が多く、学んで実践する楽しさを実感しながら一つひとつの課題に取り組めたのがよかったと思います。

 卒業後は公共や医療、社会保障といった多分 野でシステム構築やソフトウェア開発に取り組んでいる会社でシステムエンジニアとして働く予定です。現在、多くの産業で人材不足が課題になっているなか、AIをはじめとする情報技術を活用できる場面は多いと感じています。私もこれまで大学で学んだ専門的な技術を活かして、社会や人々を豊かにするために挑戦していきたいと思っています。

細かな条件設定をしてユーザー登録すると、チャットボットが観光プランをレコメンドしてくれる。左がチャットボット、右側が登録ユーザ向けWebアプリ。このテキスト内に画像を組み込むシステムを開発中

福井工業大学

「2050年大学」未来はすでに、ここで始まっている。

福井工業大学は、4学部8学科で編成され、「次世代型工科系総合大学」として、文理融合の学びを展開しています。これからの国際化社会や情報化社会に相応しい人材の育成に取り組み“2050年”を見据えた社会、そして“未来”を創っています。

「あわら宇宙センター」
JAXAとの共同研究で宇宙に飛び出し、地域に生かす。

福井工業大学あわらキャンパスには、北陸最大規模のパラボラアンテナがあります。FUTではこの設備を活用して、2003年から本格的に衛星データ利用に関する研究を行ってきました。加えて2019年には、Society5.0の基盤となるデータ駆動型社会の到来を見据え、「AI&IoTセンター」を設立。これにより「宇宙×AI」による新しい価値の創造に取り組む準備が整いました。そしてこの事業を発展的に継承する取り組みとして、2020年度より「ふくいPHOENIXハイパープロジェクト」がスタート。JAXAとの共同研究により、月周回軌道衛星との通信を可能とする高性能な口径13.5mパラボラアンテナ、地球周回衛星との通信を可能とする口径3.9mのパラボラアンテナを新たに整備し、2024年「あわら宇宙センター」の設立により、FUTの宇宙研究はさらなる広がりをみせています。

学部学科

■工学部:電気電子情報工学科/機械工学科/建築土木工学科/原子力技術応用工学科 ■環境学部:環境食品応用化学科/デザイン学科 ■経営情報学部:経営情報学科 ■スポーツ健康科学部:スポーツ健康科学科

主な就職実績

北陸電気工事、東海旅客鉄道(JR 東海)、西日本旅客鉄道(JR 西日本)、東日本旅客鉄道(JR 東日本)、東京電力ホールディングス、京セラ、セイコーエプソン、KOBELCO 神戸製鋼、熊谷組、日産自動車、本田技研工業、竹中工務店、五洋建設、オーディオテクニカフクイ、福井村田製作所、福井鋲螺、フクビ化学工業、エイチアンドエフ、三谷セキサン、信越化学工業、警視庁、福井県警察本部、法務省(刑務官)、今村証券、福井信用金庫、自衛隊 ほか

お問い合わせ先

〒910-8505 福井県福井市学園3-6-1
TEL:0120-291-780 入試広報課