Professor

北山 大輔

工学院大学

情報学部 システム数理学科 准教授
メディア情報学/データベース

ビッグデータが暗示する誰も知らない
この世界の「意味」を明らかにする

SNSが「炎上」する確率を
ユーザーのデータから分析

 ネット用語に「炎上」というキーワードがある。SNSやブログなどで不用意に発信したコメントが拡散され、多くの批判的な意見にさらされることを指すのは誰もが知っているだろう。一般の人ならば、できれば「炎上」は避けたいところ。そこで、コメントを送信する前に「炎上するよ!」とアラート(警告)を出してくれるアプリがあったらどうだろう? そのような研究に取り組んでいるのが工学院大学情報学部システム数理学科の北山大輔准教授だ。
「ある人のTwitter上の発言がどこまで広がるか予測する研究をしたことがあります。アカウントには、どれくらいのフォロワーがいて、その人のコメントに対して、どれくらいの確率でリツイート(引用発信)をするのか。さらに、そのフォロワーたちには、それぞれどのくらいのフォロワーがいて、さらにどの程度リツイートされる可能性があるのか?こしたデータを集めて、分析すると拡散の規模や『炎上』の確率を割り出すことができます」
 北山准教授の主な研究分野は「データベース応用」。「ビッグデータ」と呼ばれるインターネット上の膨大なデータを用いて、SNSやWebサイトのコンテンツを人間にとってもっと使いやすくする研究に取り組んでいる。

SNSやWebサイトのコンテンツは
もっともっと使いやすくできる!

Instagramから観光地の
穴場スポットを割り出す

 研究の軸となるのは、人と情報の相互理解を実現する情報検索・推薦技術の構築。インタラクティブ(相互作用)をキーワードに、主に2つの研究テーマを追究している。
「1つは『人間行動の理解』です。Webページの閲覧履歴やGPSによる移動履歴などからユーザーの意図を自動的に推定することで、より適切な情報の検索や提示を行う技術の開発を目指します。2つ目は『情報の理解』。データ間の関係、データ処理の過程の分析を行うことによって、データやコンテンツが暗に意味する情報の明示化を行います。求められるのは、プログラミングなど情報工学の知識と技術。話題の機械学習なども研究に取り入れています」
 例えば、観光情報を使ったこんな研究がある。まず、InstagramやFlickrなどの写真共有SNSに上がっている有名観光地の写真を集めて、位置情報で分類。そのなかで写真の点数に対して、発信しているユーザー数が少ないものを抽出する。すると「限られた人が多くの写真を撮影している」と定義された情報が集まり、結果的に有名観光地の穴場スポットを探し出すことができるのだという。
「ここでいう『穴場』にあたる仮定をもとにアルゴリズム(処理の手順)を考案し、データを解析していきます。難しそうですが、プログラミングの知識が多少あれば、今では誰でも簡単にチャレンジできます。物理的なものづくりは、道具や人手が必要になりますが、この研究はデータとアイデアがあれば、ひとりでも簡単に目的を実現できるのが面白いところです」

担当する「インタラクティブメディア研究室」の研究概要。情報検索と情報推薦を主軸に多種の分野の知識を取り入れて、新しい情報メディアを生み出す

ビッグデータを使って
人々に新しい発見を提供したい

 そんな北山准教授だが、学生時代からバリバリの情報工学系ではなかった。学部から大学院の博士課程まで「環境人間学」を専攻し、IT環境と人間の関係について学んできた。一貫して研究してきたのは、ビッグデータが暗示する人間も気づいていないこの世界の「意味」。
「例えば、あるアルゴリズムを実行すると観光情報のビッグデータから『渋谷ハチ公』と『梅田ビッグマン』が弾き出される。それぞれは、銅像と巨大ディスプレイで何の関連性もないように見えます。しかし、いずれも『待ち合わせスポット』」という類似点があるのです。これは少々わかりやすい例ですが、時折ビッグデータから予想もしないような社会の法則性や関連性が見えてくることがあります。インターネット上のデータが啓示しくれる人間の想像を超える『何か』を用いて、ユーザーに新しい発見を提供できる仕組みを構築したいですね」
 2020年の国際スポーツイベント開催に向け、沸き上がる東京。海外から多くの来訪者が訪れる東京の街角で、北山准教授の研究成果が試されるチャンスもあるのかもしれない。

写真共有SNSに上がった写真の位置情報と被閲覧数、撮影者数から、評価は高いが人がいないスポットを自動的に発見するプログラム。画面は夜景の穴場スポットを表示したもの

システムによって計算したWebページやSNSの単語の重要度を格納したデータベース。MySQLというデータベース管理システムを使用

研究に使う英語の文献。北山准教授も専門書の翻訳に携わることもあるという

※インタビュー内容は取材当時のものです。