Professor

尾関 健二

金沢工業大学

バイオ・化学部 応用バイオ学科 教授
発酵技術

食品廃棄物を高付加価値素材へと
生まれ変わらせる発酵技術を開発

学会発表はすべて学生が担当
卒論が製品化に結実するケースも

 地球上には飢餓に苦しむ国もある中で、日本の食品廃棄量は、食品消費全体の3割に当たる2千759万トンにのぼっている(2019年度発表)。この課題解決のために、食品廃棄物を高付加価値素材に生まれ変わらせる技術の開発に取り組んでいるのが、金沢工業大学バイオ・化学部応用バイオ学科の尾関健二教授だ。

 研究の大きな柱になっているのが発酵技術、すなわち微生物の有効活用である。実は、日本の大学で、発酵をメインターゲットにしている研究室は少ない。北陸では唯一無二の存在だ。その最大の理由は、発酵は複雑で、制御が難しいこと。逆に言えば、複雑なだけに、まだ解明されていないことも多い。

「日本酒、醤油、味噌の製造に使われる3つの微生物のゲノム数は、麹菌1万2千、酵母6千、乳酸菌4千で、合わせるとヒトゲノムの2万2千5百に匹敵します。その多様な組み合わせによる相乗効果、合わせ技が期待できるところに、発酵研究の面白さがあり、新たな発見の可能性に満ちているのです」

 発酵というと、古いイメージがあるかもしれないが、ゲノム研究の最前線でもあるのだ。

麹(麹菌発酵)や酵素応用技術での高付加価値素材の発酵研究の全体像

新しい発想で日本酒の
「復権」に貢献したい

日本酒の高い保湿効果を
世界で初めて学術的に証明

 尾関教授は発酵技術開発を牽引する存在であるため、数多くの企業と共同研究、委託研究が進められている。学会発表も多いが、興味深いのは、発表者を務めるのはすべて学生だということ。学生の卒論、修論のテーマが、製品化に結実するケースも目立つ。それだけに研究室の学生たちのモチベーションは高い。

 尾関教授は大学院修了後、酒造メーカー「大関」の研究所に24年間在籍した。そのため、新しい発想で日本酒の復権に貢献したいとの思いを抱いている。その一環として行われたのが、日本酒の旨み成分「α-EG」の研究だ。

「昔から、日本酒を多く飲む杜氏や力士は、肌にハリとツヤがあると言われています。その要因を世界で初めて学術的に実証しました」

「α-EG」は、日本酒の中でアルコール、グルコース(ブドウ糖)に次いで多い成分。塗布試験、飲用試験において、超低濃度の「α-EG」であっても体内に吸収されると肌の真皮層の線維芽細胞を活性化させ、コラーゲンの生産の促進が確認されたのだ。さらに、研究室で作成した「α-EG」高含有みりんを調理に使用し、食事で摂取する試験でも、1週間でパネラー全員のコラーゲンが増加。試験終了後も持続するとのデータが得られている。

 これらの研究は、酒造メーカーなどと共同で実施され、「α-EG」を通常の約3倍多く含むスキンケアに効果のある純米酒や、美容保湿クリーム、シャンプーなどの製品化に結びついている。加えて画期的なのは、これらの製品が、米焼酎の残渣を活用していることである。それを実現するために、尾関健二研究室では、発酵温度などでさまざまな工夫を重ねて、米焼酎の残渣から「α-EG」を作り出す技術の開発に成功した。従来、廃棄されていたものを、高付加価値素材へと変貌させた好例と言えるだろう。

「甘酒ブーム」の火付け役
腸内改善効果を表す物質を特定

 数年前から、甘酒が「飲む点滴」と呼ばれ、ブームになっている。尾関教授も火付け役の一人で、メディアから研究成果を紹介してほしいとの依頼が相次いでいる。

「以前から、甘酒には肥満抑制や腸内改善効果があると経験的に言われてきましたが、甘酒に含まれるどの物質が効果を表すのか、特定されていませんでした。私たちが着目したのは、レジスタントプロテイン(RP)という難消化性タンパク質です。食物繊維に近い機能を持ち、便秘改善、コレステロールの排出促進、肥満抑制などの効果が解明されています。そこで、市販の14種類の甘酒で測定したところ、すべての甘酒からRPが検出され、有効量を超えるものがいくつかあったのです」

 この研究成果を受けて、尾関教授は甘酒にRPを多めに配合する製法特許を取得。今年7月、「腸活甘酒」の商品名で販売されている。

「α-EG」高含有みりんを調理に使用し、昼食として摂取したパネラーは、全員コラーゲン量が増加した。

市販の14種類の甘酒に、レジスタントプロテインが含まれていることが確認された。

「α-EG」やレジスタントプロテインを多く含む日本酒、美容保湿クリーム、甘酒などが製品化されている。

金沢工業大学

未来社会をリードする人材を目指す

金沢工業大学では、学生自らが社会的価値を持つ研究課題を発見し、解決に取り組む社会実装型の教育研究を通じて、未来社会「Society5.0」をリードする研究力を身につけます。

「KITコーオプ教育プログラム」がスタート

企業が取り組む現実の課題に挑む「KITコーオプ教育プログラム」がスタートしました。4カ月~1年間の長期にわたって学生が、提携先の企業で業務に従事します。インターンシップと異なり、正課教育として実施されます。報酬も得るため、学生は責任を持って真剣に仕事を担うことになります。また、国連の「SDGs」(国連全加盟国が「誰一人取り残さない」世界の実現に向けて合意した目標)に関する取り組みも進めています。学生自らがSDGsに関連する社会的課題を探究し、解決策を高度な環境のもとで具体化しています。

学部学科

■ 工学部:機械工学科/航空システム工学科/ロボティクス学科/電気電子工学科(電気工学コース、電子工学コース)/情報工学科/環境土木工学科 ■ 情報フロンティア学部:メディア情報学科/経営情報学科/心理科学科 ■ 建築学部:建築学科(建築デザインコース、建築エンジニアリングコース) ■ バイオ・化学部:応用化学科/応用バイオ学科

主な就職実績

IHI、NTTドコモ、大林組、花王、鹿島建設、カプコン、川崎重工業、関西電力、京セラ、グンゼ、コクヨ、小松製作所、東日本旅客鉄道、清水建設、スズキ、SUBARU、住友林業、積水ハウス、ソフトバンク、ソニー、大成建設、大和ハウス工業、竹中工務店、東芝、凸版印刷、日本電産、日野自動車、北陸銀行、本田技研工業、三菱自動車工業、三菱重工業、三菱電機、ヤマハ、LIXIL、YKK ほか

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