「オーダーメイドAI開発」の一事例。製造業特有の課題に合わせて、データベースやチャットボットを構築。異常発生原因の迅速な特定が可能になり、業務効率化・損害最小化を実現。
少子高齢化による人手不足や熟練技術者の引退、さらには国際競争の激化――。日本の製造業はいま、大きな転換点に立たされている。限られた人材で品質と生産性を維持・向上させるため、AI活用への関心は年々高まっている。生産ラインの効率化や不良品検知、需要予測、技術継承など、その活用領域は幅広い。
そんな中、製造業に特化したAI開発を通じ、日本のものづくり現場を支援しているのが株式会社エムニだ。代表取締役CEOの下野祐太さんは、「製造業を支援することで、日本全体を盛り上げていきたい」と語る。
「当社では現在、大きく3つの事業を展開しています。一つ目は、製造業各社の課題に合わせてAIシステムを構築する『オーダーメイドAI開発』。二つ目は、AIとの対話を通じて暗黙知の抽出や技能伝承を支援する『AIインタビュアー』。そして三つ目が、大量の特許文書をAIで分析・可視化し、業務コストを大幅に削減する『AI特許ロケット』です」
その中でも事業の中核となっているのが、オーダーメイドAI開発だという。
「製造業では、多数の図面を人の目で確認する業務がありますが、そうした工程をAIによって自動化しています。また、自動車関連の設計変更が発生した際、その変更が品質面でどのようなリスクにつながる可能性があるのかをAIが分析・支援するといった活用も進めています」
一方で、製造業におけるAI活用は、まだ発展途上の段階にあるという。
「業務の中で部分的にAIを利用している企業は増えています。しかし、業務プロセスそのものにAIを組み込み、業務基盤として機能させている企業は、まだごく一部です」
それだけに、製造業におけるAI活用には大きな可能性が残されている。ただ、多くの企業が導入段階でつまずいてしまう共通の理由もあると下野さんは指摘する。
「『AIには便利な機能があるから導入しよう』という発想からスタートするケースは少なくありません。しかし、それでは定着せず、期待した成果につながらないことが多いのです。重要なのは、まず自社が抱える課題は何か、そして将来的にどのような状態を目指すのかを明確にすることです。その上で、AIをどの業務で、どのように活用するのかというユースケースを設計していく必要があります」
人手不足が深刻化する中、製造業では「限られた人数で、いかに安定した操業を維持するか」が大きな課題となっている。たとえば、プラント運営の現場でも、操業の半自動化による省人化が模索されているが、「最初から大きな自動化を目指しても、多くの場合うまくいかない」と下野さんは指摘する。
「『プラント操業をAIで自動化する』という目標を、そのままユースケースにしてしまうと難易度が高すぎるんです」
だからこそ、まずは小さな課題から段階的に取り組むことが重要だという。最終的なゴールを見据えながら成功体験を積み重ねることで、大きな変革につながっていく。
「プラントには数多くのセンサーが設置されています。まずは、それらのデータをAIで活用できるよう整備していく。また、熟練技術者の頭の中にある“勘どころ”やノウハウも、図面情報などと紐づけながらデジタル化し、AIが活用できる知識として蓄積していくんです。そうした仕組みを積み上げることで、最終的にはプラント全体の自動化へ近づいていきます」
もっとも、AI導入はシステムを構築すれば終わりではない。製造業の多くは長年の運用を前提に業務プロセスや情報管理の仕組みが築かれているため、まずはAIが活躍できる環境整備が欠かせないという。
「重要なのは、データを集め、整理し、AIが活用できる状態に整えることです」
設計書が紙のまま保管されていたり、Excelで管理されていても部署ごとにフォーマットが異なったりするケースは少なくない。人には理解しやすくても、AIには扱いづらいデータも多い。
「人が見るために整理されたデータは、必ずしもAIが処理しやすいとは限りません。AIが読み取りやすい形に前処理やデータ整形を行うことが重要です」
実際、自動車関連企業において、仕様書の表記揺れや記載ルールのばらつきを標準化する取り組みもエムニで支援している。こうした基盤整備によって、関連業務の処理効率が約1.5倍に向上した事例もあるという。
一方で、中小企業へのAI導入には費用対効果の課題も残る。
「現状では、中小企業がAI導入を進めても、投資に対して十分なリターンを得づらい構造があります。そのため、まずは大企業で導入を進め、得られた知見を抽象化・パッケージ化しながら、中小企業にも展開していきたいと考えています」
短期的な成果だけを追うのではなく、中長期的な視点で製造業全体の変革を進めていく。しかし、その変革の歩みは可能な限り加速させたいという。
「AIが業務を支え、人はより高度な判断や改善活動に注力できる。そして、日本の製造業が強みとしてきた高品質なものづくりを維持しながら、さらに発展させていく。そうした世界は、十分に実現できると信じています」
製造現場の課題解決にとどまらず、日本のものづくりそのものを次の時代へつないでいく――。下野さんの視線は、その先の未来を見据えている。
松尾研究所および京都大学発のAIスタートアップ。最先端の学術基盤と高度な技術力を強みに、Industry5.0時代を見据えたソリューションを提供している。日本を代表する大手メーカーを中心に、製造業に特化したAI開発で企業を支え、日本の製造業におけるAI活用のハブになることを目指している。
代表取締役CEO