
一つひとつのプレーや選手、ボールの動きといった多様なデータを収集し、それらをさまざまなアプローチで分析・加工。
リーグ、クラブ、メディア、ファンなど、それぞれの目的や関心に応じて、最適な形でデータを提供するのがスポーツアナリストの仕事だ。
近年、スポーツにおけるデータ分析、いわゆる「スポーツアナリティクス」は飛躍的な進化を遂げている。背景には、試合会場に複数のカメラを設置することで、選手やボールの動きを高精度に捉えられるようになったトラッキング技術の進歩、さらにはAI(人工知能)を用いた解析手法の高度化などがある。従来は目に見えなかった戦術やプレーの構造が、データによって可視化されるようになり、戦術の最適化やスカウティング、そしてファンの観戦体験までもが大きく変わりつつある。そんななか、データとソリューションによってスポーツに新たな価値を創出しているのが、データスタジアム株式会社だ。スポーツデータを取得・配信する「データバンク事業」、クライアントの課題を解決する「ソリューション事業」、そしてデータや映像を分析・加工して有益な価値を提供する「コンテンツ・アナリティクス事業」を展開しており、野球・サッカー・バスケットボールの3競技において、計15人のアナリストが在籍している。そのなかでバスケットボールを専門とするアナリストが柳鳥亮さんだ。
「当社は、日本の男子プロバスケットボールリーグである『Bリーグ』の公式記録を取得する業務に携わっています。具体的には、選手の出場試合数やプレー時間に加え、得点、リバウンド、アシスト、シュート試投数・成功数・成功率、スティール、ブロックなど、多岐にわたる項目を記録しています。シュート1つとっても、ジャンプシュートかレイアップか、ドリブルからかパスを受けてかなど、細かく分類していきます」
こうして取得したデータをリーグやクラブ、メディア、ファンといった対象ごとに、さまざまな切り口で分析・デザインして届けるのが柳鳥さんの役割だ。たとえばリーグ向けには公式記録として、クラブ向けにはチーム強化や対戦相手の分析結果として提供する。
「メディア向けには番組企画で選手の特徴的な能力を可視化したり、ファン向けには試合開始前の会場コンテンツで“本日のキーポイント”として試合の見どころをデータで伝えたりします。今年のBリーグチャンピオンシップでは、宇都宮ブレックスと琉球ゴールデンキングスが対戦しました。宇都宮は3Pシュートの攻防で優位性を築くスタイル、琉球はオフェンスリバウンドによるインサイドの強さが特長でした。そうしたチームの特色をデータで表現することで、試合への期待感を高めることができるのです」
分析方法としては、まずSQLによるデータベースからの抽出。そこからPower BIやTableauといった可視化ツールを使って、グラフ化やスタッツの整理、勝敗別の傾向分析などを行っていく。使用するプログラミング言語はアナリストによって異なるが、SQLの知識はほとんどの場合で必要になるという。
クラブの支援においても、データは有効な手がかりとなる。課題や要望が曖昧なケースほど、原因を数値として特定し、改善策を導き出すアナリストのスキルが問われると柳鳥さんは語る。
「『最近なぜか勝てない』というような漠然としたご依頼は少なくありません。その場合、勝った試合と負けた試合のスタッツを比較し、差が大きい項目を見つけることで、勝てない要因を洗い出していきます。リバウンドが取れていない、ターンオーバーが多いといった具体的な原因が見えてくれば、練習でその点を改善していくことが可能になります」
そのほかプレーのテンポに関する相談を受けることもある。試合をもっと速く展開したい、オフェンスでボールが停滞している気がする、といった相談に対しても、ペースを評価する指標をもとに、相関のあるスタッツを抽出することで具体的なアドバイスができるという。
「オフェンスのペース改善は、意外にもディフェンス側の数値を改善することで実現できるケースがあります。スティールやディフェンスリバウンドなど、守備を良い形で終えることができれば、速攻に転じやすくなり、攻撃のペースも上がる。このように、データで考えることによって見えてくる景色があるのです」
Bリーグではまだトラッキングデータの導入が限定的だが、今後はその普及とともに、より高度な分析が可能になると柳鳥さんは考えている。AIや機械学習の進化、そしてコンピュータの処理能力の向上により、大規模な集計・分析も今後ますます進展していくという。
「現在でも一部で進んでいますが、勝敗予測やプレー予測がリアルタイムでできる時代が当たり前になるでしょう。ただし、それが本当にスポーツとして面白いかどうかは別の議論です。大切なのは、関係者やファンがデータ分析の価値を理解し、楽しめるものとして受け入れてくれること。データはあくまでひとつの指標ですが、それによってスポーツの魅力がもっと広がっていくとうれしいですね」
データの取得には当然コストもかかる。だからこそ、クラブやリーグがその価値を見出し、投資する意義を感じることが重要だ。データによってプレーが変わり、観戦体験が変わり、スポーツの未来が変わっていく。プレーする側にとっても、観戦する側にとっても、データがスポーツに新たな楽しみ方をもたらす未来を期待したい。
「スポーツの力を、社会の熱量に」をパーパスに掲げ、データとソリューションでスポーツに新たな価値を創出している。スポーツ業界が抱えるさまざまな課題に対し、データ・IT・ノウハウを駆使して解決。データの取得や管理のみならず組織を最適化するためのコンサルティングなどにも携わっている。
アナリスト