Professor

吉田亘

東京工科大学

応用生物学部 応用生物学科 講師
核酸工学/遺伝子工学

遺伝子を制御する「スイッチ」が
がん診断や創薬の未来を変える!

約2万2000個の遺伝子が
パーツごとの細胞を設計する

 2003年、ヒトゲノム計画により、ヒトDNAの配列が解明された。私たちの身体を構成する30兆個以上と言われる細胞は、すべてDNAという設計図によって、複製されている。しかし、冷静になると疑問が残る。なぜ同じ設計図から心臓の細胞、脳の細胞といった異なる機能を持つ複製品ができ上がるのか?

「DNAの中には、ヒトの遺伝情報を司る遺伝子が約2万2000個あり、これをもとに身体のパーツごとの細胞がつくられます。1つの細胞をつくるのに、2万2000個すべての遺伝子を使うわけではなく、心臓ならそのうち6000個、脳なら8000個というように使う遺伝子は異なります。こうして、違う機能を持つ細胞になるのです。私はここにおける遺伝子の機能が発現するか、しないかを制御するスイッチのオン・オフの仕組みに着目しています」

 そう語るのは、東京工科大学応用生物学部応用生物学科の吉田亘先生。現在は、DNAを対象に、がんなど病気の簡易診断技術や抗がん剤などの新薬開発の基礎研究に取り組んでいる。吉田先生の研究キーワードのひとつが、DNAの「メチル化」。これが、前述したスイッチのオン・オフの役割を果たしているという。「メチル化」を詳しく説明すると、DNAを構成する化合物A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)のうち、Cにメチル基(CH3)が付くことを指す。メチル基がCに付いていれば、スイッチは「オフ」で、その遺伝子は働かない。逆にメチル基がCに付いていなければ、スイッチは「オン」になり、その遺伝子は働いている状態になる。

「体内の細胞の一つひとつでこうした遺伝子スイッチのオン・オフが正確に行われることで、私たちの健康な生活が維持されています。しかし、このスイッチの機能に異常が生じることがあります。がん細胞がその一例で、通常はオンでなければいけない特定の遺伝子の働きがオフになることで、『がん化』する可能性があります。そこで私たちは、このスイッチの異常を検知する方法を確立し、新たな診断技術の開発につなげたいと考えています」

遺伝子の「スイッチ」に異常が起こり、正常な細胞が「がん化」するメカニズムを説明したイメージ図。体内のすべての細胞内でこのオン・オフが行われている

スマートフォンを使って自宅で簡単に
がん検診ができる未来を実現したい!

ATGCの二重らせんと異なる
グアニン四重鎖構造とは?

 吉田先生の遺伝子研究には、もうひとつのキーワードがある。それが「DNAの四重鎖構造」。どういうものなのだろうか?

「DNAは通常、AとT、CとGが水素結合して、よく知られる二重らせん構造を形成しています。しかし、例外的に4つのGが互いに水素結合するグアニン四重鎖構造が形成されることもあって、これも遺伝子のスイッチの役割を果たしていることがわかっています。そこで、学外の研究機関と共同で、専門的な解析を行い、約2万2000個の遺伝子のうち、3766個にスイッチとなり得る四重鎖構造が存在することを突き止めました」

 この四重鎖構造に特異的に結合する分子を見つけるのが次のステップ。そのメカニズムを解明し、遺伝子に直接作用するバイオ医薬品を開発するのが吉田先生の現在の目標だ。

 吉田先生が、バイオテクノロジーの研究と出合ったのは学生時代。当時は、DNAを使って病気の目印となる分子を測定する研究に取り組んでいた。その後、研究生活を続ける過程で、「DNAのメチル化」という現在の研究テーマに出合った。

「遺伝子のスイッチ」を
ものづくりにつなげたい

 ヒトゲノム計画によって、すべてが解明されたと考えられがちなヒトDNAには、遺伝子という2万2000個におよぶパーツがあり、その働きは未だに多くの謎に包まれている。想像力と理論的な思考力をフル回転して、目に見えないフロンティアに挑むところに、この研究の面白さがあると吉田先生は微笑む。

「メチル化の研究を進めて、将来的には、簡単な採血キットやスマートフォンを使って、自宅でがん検診ができる技術を構築したい。また、創薬分野では、メチル化の検出によって特定の遺伝子にターゲットを絞ることで、副作用の少ない抗がん剤をつくれるのではないかと考えています。『遺伝子のスイッチ』という生物学的なアイデアから、革新的な“ものづくり”を実現したいと思っています」

ホタル発光タンパク質を融合させた人工タンパク質を利用した、ゲノムDNA全体のメチル化レベル簡易測定法の概念図。研究室で開発をめざす「がん診断技術」のひとつ

2019年2月、吉田先生は、学術誌「Biosensors and Bioelectronics」からCertificate of Excellence in Reviewingを授与された。また6月には、Springer社の学術誌「Analytical and Bioanalytical Chemistry」のYoung Investigator特集において、分析化学(バイオ)分野で活躍する若手研究者に、唯一の日本人として紹介された

学生も研究活動で利用できる八王子キャンパス片柳研究所内のバイオナノテクセンター

東京工科大学

「実学主義」でAI・ICTの未来を創造する理工系総合大学

東京工科大学は教育・研究の柱に「実学主義」を掲げ、最新の専門的な知識はもちろん、国際的な教養や豊かな人間性を養成。これに加えて、最先端のAI研究や、これからの社会において極めて重要なICT(情報通信技術)教育を展開。これらに裏付けられた充実の教育環境で、時代や技術革新に適応しながら社会で活躍し続ける人材を育成します。

最先端のキャンパスで次世代を担う研究が進行中

八王子キャンパスにはバイオナノテクセンターやデジタルモーションキャプチャリングスタジオなど、充実した施設に最先端の設備が集結。キャンパスのシンボルである片柳研究所には、第一線で活躍する研究者が集い、次世代の研究が進行中です。

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■ 工学部:機械工学科/電気電子工学科/応用化学科 ■ コンピュータサイエンス学部:人工知能専攻※/先進情報専攻※ ■ メディア学部 ■ 応用生物学部:生命科学・医薬品専攻※/食品・化粧品専攻※
【蒲田キャンパス】
■ デザイン学部:視覚デザイン専攻※/工業デザイン専攻※ ■ 医療保健学部:看護学科/理学療法学科/作業療法学科/臨床工学科/臨床検査学科
※2020年4月新設

主な就職実績

アオイスタジオ、IIJグローバルソリューションズ、東日本電信電話、カプコン、カラー、KADOKAWA、キヤノン、コナミデジタルエンタテインメント、東日本旅客鉄道、セガゲームス、ソフトバンク、ディー・エヌ・エー、ドワンゴ、日本アイ・ビー・エム、ヤフー、富士通、IMAGICA Lab.、NTTデータ、レベルファイブ、アステラス製薬、協和発酵キリン、コーセー、ヤクルト本社、資生堂、テルモ、森永乳業、GMOインターネット、ぐるなび、ロボット、gumi、サイバーエージェント、フロム・ソフトウェア ほか

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