マナビ
教えて、先生!

Q.先進国になった日本は昔のような経済成長は難しいの?

A.経済成長のカギを握るのは「技術革新」。
まずはデータで現状を把握してみよう。

かつての「高度経済成長」を期待するのは難しい!?

 若い世代の皆さんは、将来の日本がどうなるか心配になることもあるでしょう。結論から言うと今後の日本に、1950年代から70年代のような「高度経済成長」を期待するのは難しいかもしれません。それは、アメリカやヨーロッパなど、ほかの先進国も同様です。

 経済成長を実現するには、主に2つの方法があります。1つは、「がむしゃらに働く」。今まで8時間働いていたところを倍の16時間働けば、モノの生産量が増加し、収入が増えると考えますよね? ただ、これは日本では難しいのが実状です。経済用語に「限界生産物逓減の法則」というものがあります。これは、特定の生産要素を2倍、10倍、100倍......と増やしていってもリターンとなる生産量は同じ倍率では増えないことをいいます。がむしゃらに労働力を増やし続けても生産量はいつか頭打ちになるのです。そもそも人間は1日に16時間も働けません。そんなに働いたら、いくら豊かでも幸せにはなれませんよね。

 そこで気になるのは2つ目の方法。それは 「技術革新」です。例えば、AIやロボットに単純労働を任せて、人間は新たな価値を生み出す製品を考えるような方法がこれにあたります。自動運転車や再生可能エネルギーの開発など、技術革新のチャンスはたくさんあります。日本が引き続き経済成長をめざすなら、技術革新に注力すべきでしょう。

このままでは 日本は先進国ではなくなる!?

 ただ、経済成長には、格差の拡大という大きな問題がセットで付いてきます。世の中の富(資源)は限られていて、一方が急激に富を得ると一方が相対的に貧しくなります。例えば、現在はアジアやアフリカの国々が急速に経済成長をして、先進国の仲間入りをめざしています。すると経済成長率が伸び悩む日本では、相対的にランキングが下がり、いずれ先進国とは呼ばれなくなる可能性もあるのです。

 では、どうすればいいか。残念ながら、そこに明確な答えはありません。各国の経済学者もみんなが豊かになる方法を一生懸命考えています。そこで、皆さんもぜひ経済成長を維持しながら幸せに暮らす方法を自分なりに考えてみてください。求められるのは、未来を構想する想像力です。おそらく経済学だけでなく幅広い知識が必要になります。勉強した経験は裏切りませんよ!

内閣府の統計データから 日本経済の今が見えてくる

 経済成長について考える第一歩は、信頼 できる統計データで日本や世界の現状を知ることです。まず、経済規模や豊かさの指標 のひとつとされるのが、GDP(国内総生産/Gross Domestic Product)や1人当たりGDPです。GDPはある国が生産したモノやサービスによって生み出された付加価値を表す尺度です。現在、日本のGDPはアメリカ、中国に次いで世界第3位を維持しています。ここから日本はまだまだ世界で3番目の経済大国であることがわかります。ほかにも景気の先行きを知る「景気動向指数」、消費者のマインドや物価の動きを知る「消費動向調査」など、内閣府のホームページを見るだけで、おもしろいデータがたくさん探せます。ここから未来のヒット商品や注目すべき職業のヒントが見えてくる可能性だってあるでしょう。

 まずは、こうした身近なデータを見て、リアルな経済社会に関心を持ってください。そして、経済成長の維持や格差の是正など、将来の日本が抱える課題を解決する創造的な方法を考えてみてほしいと思います。

亜細亜大学
経済学部経済学科
申先生が教えてくれました
亜細亜大学 経済学部経済学科 教授
博士(経済学)
申 寅容SHIN Inyong

2003年、東京都立大学大学院 社会科学研究科博士課程修了。博士(経済学)。東京都立大学経済学部助手、亜細亜大学経済学部専任講師、准教授を経て、現職に就く。この間、ニューヨーク州立大学 ストーニーブルック校客員教授などを歴任。

申ゼミをご紹介

題材とするのは、「経済成長」に伴うさまざまな社会現象。「経済成長と所得不平等」「経済成長と環境」など、所属する学生は自由にテーマを決め、卒業論文やレポートにまとめている。研究に経済モデルを用いたシミュレーションを用いるのが特徴で、プログラミングのスキルも鍛えられる。申先生は現在、「パンデミック後の経済格差」に関心を持って研究に取り組んでいる。