Special Interview

早稲田大学
理工学術院 創造理工学部

所 千晴
教授

お宝が眠る「都市鉱山」を掘り起こし
貴重な金属資源を循環させる

都市にはモノがあふれている。
つくられ続けるモノと、捨てられ続けるモノ、ふたつの“モノ”の架け橋となる
環境負荷の少ない資源再生技術とは?

 都市にあふれる使用済みの携帯電話やパソコン。その基板からは希少なレアメタルや、金や銀などの貴金属が取り出せることから「都市鉱山」と呼ばれ、リサイクル資源として注目を集めている。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでも、メダルが都市鉱山からつくられると発表され話題となった。ただし、基板から金属資源を取り出すのは容易ではない。物理的にある程度粉砕・選別したうえで、化学的に抽出し、純度を高めていく。早稲田大学理工学術院の所千晴教授は、その初期の段階にあたる物理的選別の方法を見直し、低コストで効率的な金属資源の分離技術を研究している。

「物理的な選別の精度が高まれば、化学的な製錬(純度を高めること)にかかるコストやエネルギー、有害な薬品による環境負荷を抑えることができます。鉱石から金属を選別して取り出す技術は『ミネラルプロセッシング』と呼ばれ、古くからある鉱山技術なのですが、私は、都市鉱山におけるミネラルプロセッシングの研究を通じて、環境保全に貢献したいと考えています」

 では、基板から金属部品をどのように取り出すのか。所教授は固体と固体の境目である「界面」に着目し、モノは界面、つまりパーツの接合部から壊れていくという自然の摂理をもとに「ドラム型衝撃式破砕機」を開発した。これは、ドラム式洗濯機のような破砕機に基板を入れ、高速回転によって衝撃を与えることで基板から部品をはがし落とす機械だ。ドラム部分の設計や回転速度、内部に設置する羽の形状など、あらゆる要素をシミュレーションと実験で検証しながら、部品がきれいにはがれる条件を探っていった。

「リサイクルプラントなどと共同開発しているのですが、現場には最適な条件をもたらすアイデアを見つけだしてくれる人がいて、たいていそういう人のカンは当たる。そこが面白いんですよね。ただ、最適な条件が見つかれば終わりではない。私たちの役割は、学術機関としてその原因を解明し、理論化すること。そこでようやく誰もが納得する技術となり、実用化につなげられるのです」

 原因解明においても、再びシミュレーションを重ねて仮説を検証していく。途方もない作業だが、小さな発見がヒントとなり、そのヒントを糸口にアイデアをひねり出していく過程は、パズルを解くような面白みがあるという。

「学生たちが一番研究にのめりこむポイントですね。私にとっても達成感が得られるのは、『なんでこんな現象になるんだろう?』といった疑問が何かの拍子に解明かされる瞬間。その成果が社会に直接還元できることにも、大きな意義を感じています」

 現在は機械による粉砕だけでなく、水中で固体粒子に直接電圧をかける電気パルス粉砕を使った資源の分離も研究している。太陽光パネルなどに電気パルスを流して樹脂と金属を分離させ、金属を取り出す技術だ。機械的な分離とはまた違ったアプローチで、対応する分野もより化学的になる。しかし、環境に配慮した、効率的な分離技術の追究という目的に合うものなら、どんな技術でも扱っていく。将来は全く違う方法や分野で研究をしているかもしれないというのが所教授のスタイル。

「今後は、製品の処理段階だけでなく、生産段階へも働きかけていきたいと考えています。現在はモノをつくる人と処理する人、それぞれが別々に動いていますが、処理の仕方を考慮した生産設計がされれば、さらに資源の循環は良くなっていくはず。そのためにも社会に影響力のある研究を行い、積極的に発信していこうと思います」

所 千晴

早稲田大学
理工学術院 創造理工学部
教授

1998年、早稲田大学理工学部卒業。2003年、東京大学大学院工学系研究科修了。2004年、早稲田大学助手に就任。専任講師、准教授を経て、2015年より現職。2016年から東大生産技術研究所特任教授を兼務。専攻分野は、資源処理工学、環境浄化工学。

DOWAエコシステム株式会社と共同でプロセス開発したドラム型衝撃式破砕機。実際に、家電リサイクルにおける粉砕・選別段階で使用されている

PC上のシミュレーションによって、ドラム部分の設計や回転速度などを検証し、実装へとつなげている

基板上の四角く金色に光っているコンデンサに使用されるのが「タンタル」というレアメタル(希少金属)。銅を回収する製錬では回収できないので、破砕機が活躍する

実験段階で使用される小型のドラム式破砕機。高速回転によって基板に衝撃を与え、金属を剥がし落とす