RESEARCH×TEAM

Team

WHILL株式会社

WHILL Model A開発チーム

スタイリッシュなフォルムと滑らかで力強い動き。車イスの概念を一変させたWHILL(ウィル)を開発したのは、小さなベンチャー企業だ。「すべての人の移動を、楽しくスマートに」というフィロソフィー(哲学)のもとに集まったプロたちは、どのようなチームでWHILLをつくっていったのだろうか。中心メンバーである、駆動システム担当の佐藤圭悟さんと機体の設計・デザイン担当の菅野秀さんに話を聞いた。

設計・デザイン担当

菅野 秀さん

首都大学東京大学院
システムデザイン研究科
航空宇宙工学専攻 修了

駆動システム担当

佐藤圭悟さん

東北大学大学院
工学研究科
バイオロボティクス専攻 修了

「すべての人の移動を楽しくスマートに」
のフィロソフィーをもとに各分野のプロが集結!

 「中途半端なことをするなら、いますぐやめろ」。きっかけは、WHILL 試作機を発表した2011年の東京モーターショーで、他社の車イスメーカーの社長に言われたひとことだった。コンセプトモデルを発表するだけで、製品化に至らず、ユーザーを落胆させることが、それまでに度々あったという。初期の開発メンバーはNPO法人として会社勤めと並行して活動していたが、この言葉で覚悟を決める。そして、大企業を飛び出し、WHILLの量産をめざすベンチャー企業を立ち上げた。

─どんな分野の方が集まっているのでしょうか。
菅野
メカ設計、電気設計、ソフトウェア、デザインと、各分野を専門とする人が集まっています。私はデザインと本体構造の設計。
佐藤
私はモータやバッテリーなどの駆動システムの担当です。
菅野
メカはタイヤ、本体構造、解析などに、ソフトウェアは組み込み、ウェブ系などに分かれていますが、ベンチャーなので業務範囲は広く横断的に担当していますね。
佐藤
WHILLの特徴はチームとしての機動力の高さ。規模が小さいので、毎日顔を合わせるし、なにを考えているのか専門分野は違ってもお互いにわかる。目的は同じですし、短期間でしっかりと答えが出せる。それが、ベンチャーでのものづくりのよさですね。
─規模が小さいからこそ実現できたことはありますか?
菅野
現在のWHILL Model Aでは、電源とスピード調節機能をひとつのマウスにまとめていますが、試作段階では別々でした。
佐藤
しかし、電源とスピード調節レバーが別にあることで操作が困難な方や、誤作動させてしまう方もいることが分かったのです。調査結果を製品にどう反映させるか、考えた結果がスピード調節レバー自体に電源機構を組み込むというアイデアでした。
菅野
そのためにはセンサーと基板をつくりかえなくてはなりません。電気チームとメカチームでアイデアを出し合いますが、お互いに制約条件もあります。
佐藤
電気チームの要望を聞けばコストは上がります。しかし、機能性を高めるためにはそれを実現して、デザインとユーザービリティ(操作性)も維持したい。難しい調整が続きました。
菅野
QCD=クオリティ、コスト、デリバリー(納期)を何より重視しながら、お互いぶつかりあって、ひとつの目標に向かっていく。
佐藤
一緒につくる仲間でもあり、交渉相手でもあります。
─ベンチャー企業の開発メンバーに求められる資質とは?
佐藤
できる仕事の選択肢をたくさん持っていることでしょうか。例えば、ある場所のセンサーを変更したいという話になったら、頭の中にすぐにいくつかのアイデアが浮かび、その場で対応する商品を持つメーカーに問い合わせるところまでできる人が集まっている。
菅野
ベンチャーは人数が少ないから一人ひとりのやることが多い(笑)。大企業にいた頃の業務はずっと細分化されていたのですが、ここでは調達から発注までを担当します。
佐藤
特に調達は苦労します。私は自動車メーカーにいたので、製品に使えるいい自動車の部品があることは知っているのですが、1万、10万(個)という単位でしか発注できない。私たちのような小さい会社ではそれは難しい。では、ほかに使える部品はないか、納品してくれる会社はないか。そうやってみんなで模索して、ひとつのものをつくっていく。
菅野
結果として先ほどの操作機能の改良も2~3カ月で終わらせました。大企業では考えられないスピードだと思いますね。
─メンバーの皆さんをつなぐものって何なのでしょう?
佐藤
私たちは、「すべての人の移動を楽しくスマートに」というWHILLのフィロソフィーに賛同して集まっているんです。だから、忙しかったり、苦労したりするときも目的を見失うことはありません。
菅野
月並みかもしれませんが、WHILLを使ったユーザーの方に喜んでもらえることが何よりのやりがいです。チーム全員の技術やアイデアを結集したことで、「外出が楽しくなった」、「子供と手をつないで幼稚園から帰れるようになった」というお声をいただけるのは本当にうれしいです。
佐藤
だからこそ、お客様からの製品へのフィードバックやご要望も重要です。
菅野
まだまだ改良できる。もっと上をめざせるという感覚は、エンジニアとして持ち続けたいですね。
─皆さんも理工系出身だと思いますが、大学の学びが仕事で役立つことはありますか?
佐藤
研究で身につけた"ロジカル(論理的)"な考え方は、エンジニア同士共有できる感覚がありますね。大学でものをつくったり、実験を繰り返したりするとき、想定しないことや失敗はいくらでも起こる。それに対して、何が起きているのか仮説を立てて、検証・分析する。一つひとつ確かめながら前に進んでいくことを経験してきた仲間が集まっているので、同じフレームワーク(枠組み)のなかで仕事ができる。
菅野
理工系の学びで鍛えたロジカルな思考はビジネスをする上では確かに重要です。私の仕事はデザインと本体構造設計が主ですが、デザインにおいても、アートだと思ってはいない。仕事の先にユーザーがいる以上、コストやユーザビリティも合わせて考え、取引先やユーザーに明確に「こういう理由だから、こう改良しました」と説得する力が求められます。
佐藤
ロジカルな思考が身につけられるのは、理工系の大学で学ぶ大きな価値なのは間違いないですね。ただ、高校生の皆さんは、将来についてあまり難しく考えなくていいですよ。「ちょっと面白そうだな」と感じるテーマがあれば、大学時代に何でも手を出してみればいいんです。そのうち何か夢中になれるものが見えてくると思いますよ。
WHILLの
ココがスゴイ!
段差を乗り越える走破性を持たせるなら、タイヤを大きくすればいい。しかし、小回りを優先するなら、タイヤは小さいほうがいい。走破性と小回りの実現には相反するタイヤ特性が必要だった。そんな状況を打開したのがWHILLのオムニホイール(全方位タイヤ)と4WDの採用。これにより段差や悪路を走れる走破性と小回りの良さを実現した。さらにスマートフォンアプリによるリモート操作や詳細な設定などの最新鋭のシステムも搭載。走破性と小回り、そして美しいスタイルを誇るWHILL Model A は、2015年のグッドデザイン大賞を受賞した。

※インタビュー内容は取材当時のものです。