Professor

阿武 宏明

山口東京理科大学

工学部 電気工学科 教授
エネルギー変換材料

「熱」を電気エネルギーに変換
電気工学で環境問題に挑む!

日本中で浪費されている
熱エネルギーに着目

 太陽光発電は、「光」を電気エネルギーに変換して利用する技術だが、その際にソーラーパネルに集まった「熱」がほとんど利用されていないのは意外に知られていない。山口東京理科大学工学部電気工学科の阿武宏明教授は、ここに着目し、熱を電気に変換して活用する研究に取り組んでいる。
 これは、「熱電発電」と呼ばれる技術。最先端のものづくりを基盤で支える「電子材料工学」の一分野だ。
 「今、日本では『熱』という貴重なエネルギーがあちこちで無駄に消費されています。例えば、火力発電所では原油の約65%が廃熱として大気に放出されていると言われています。さらに、皆さんが日々使っている自動車のガソリンもエンジンによって駆動エネルギーに変換されるのはおおよそ20%。残りは廃熱として、放出されています。これらの熱を電気エネルギーに変換できれば、限りある化石燃料のロスも減らせますし、大気汚染も抑えることができます。ゴミ処理場や工場も貴重なエネルギー源に変えることができるのです」

熱電発電の基盤となるのは
「 ゼーベック効果」という現象

 阿武教授が取り組む熱電発電のベースとなるのは、「ゼーベック効果」と呼ばれる物理現象。これは、細長い棒状の材料の両端に温度差を生じさせるとそこに電圧が発生し、電力が取り出せるというもの。材料は、主にシリコンなどの半導体を用いるという。このゼーベック効果を使って、熱エネルギーを電気エネルギーに変換するのが「熱電素子」。言わば小さな発電装置といえるこの素子の材料や仕組みを検討し、発電の効率を高めるのが阿武教授の研究室の使命といえる。
 「熱電発電技術には、さまざまなメリットがあります。例えば、熱電素子は、火力発電所のように巨大なタービン(羽根車)を回す必要がないので、メンテナンスが要りません。さらに、無騒音、無排出ガスという特長もあります。熱電発電は、風力発電や水力発電と並ぶ注目の環境エネルギーなんですよ」

熱電発電の原理を表す模式図。半導体材料の片方の端を加熱すると温度差が生じ、電子の流れが発生。そこから電気エネルギーを取り出すことができる。

ものづくりを支える電子材料工学は、
世界を変える大発明への入口です

体温で発電して動く
ヘルスモニタリング機器

 阿武教授の研究室では、地球の未来を救うかもしれないスケールの大きな研究テーマに取り組む一方、手のひらに乗るような日常的な研究テーマも扱っている。キーワードは「やわらかい材料」。電気の流れるプラスチックである「導電性高分子」を使った新しい電子材料、および熱電素子の開発である。
 「ポリチオフェンという導電性高分子、カーボンナノチューブやグラフェンなどのナノ炭素材料を使って、体温などで発電できる手軽な熱電素子をつくれないかと考えています。カーボンナノチューブは、先ほど説明したゼーベック効果が高い材料で、プラスチック板のように曲がるのが特徴。さらに、環境負荷が低く、資源量も豊富というメリットがあります。カーボンナノチューブを使った熱電素子を量産できれば、身体に直接ペタリと貼り付けて、体温で発電しながら血圧や脈拍を測るヘルスモニタリング機器などを開発できるでしょう」
 材料をナノレベルから設計し、まだこの世に存在しない機能を持たせること―。阿武教授にとって、これが「電子材料工学」の面白さ。電気工学科には、世界に新しい価値を提供する「材料」を開発するという注目の研究分野があることを知っておくべきだろう。
 「例えば、スマホのタッチパネルが指の動作で反応するのは、導電性の薄膜の技術によるもの。これはほんの一例で、私たちの身の回りには、電子材料があふれています。だからこそ、便利なスマホを無意識に使うのではなく、『これどういう仕組みなの?』という視点を持ってほしい。その原理を掘り下げれば、必ず世界の見方が変わる発見があります。電子材料工学が、世界を変える大発明への入口になる可能性は十分にあると思います」

「ゼーベック効果」を説明するデモンストレーション装置。熱湯を入れた容器を装置の上に置くと電流が発生し、プロペラが回る。

導電性高分子を使った発電素子を作製中。フイルム状の基盤に高分子材料をプリントする。

できあがった熱電変換材料をナノレベルで構造解析する走査型電子顕微鏡。大学には、他にも最新の分析機器がそろう。

※インタビュー内容は取材当時のものです。