おもてなしの心をアカデミックに捉える。

■ ホスピタリティって?
「ホスピタリティ(Hospitality)」は、一般的に「心のこもったもてなし」などと訳されるが、その語源はラテン語の「Hospes(客人の保護者)」である。ラテン語の「Servus(奴隷)」を語源とする「サービス(service)」との違いといえる。すなわち、サービスは、語源どおりサービスを受ける立場が主で、サービスを提供する方は従という主従関係があるのに対して、ホスピタリティは、お互いを理解し、認め合い、信頼し、助け合う相互感謝の関係といえる。
それは、日本古来の茶道の精神のひとつ「一期一会」に相通じるものがある。「あなたに会うのは一生に一度の機会かもしれない。誠心誠意、真心を持って接する」という茶道の「おもてなしの心」が、ホスピタリティの意味をよく表している。このように私たちは古くからホスピタリティの精神を育んできたが、効率ばかりを追求してきた日本経済社会の中で「相互感謝の関係」といったものが日本人の心から失われつつある。
その一方で、ホスピタリティを再認識し、もう一度お互いを思いやる心を社会生活の中で取り戻そうという動きが広まっている。当初はホテルやレストランなどの観光・飲食業界や、病院や介護施設をはじめとする医療・福祉業界でホスピタリティの価値が再認識されていたが、最近ではさまざまな産業においてホスピタリティがビジネスの重要な付加価値のひとつとして再認識されてきている。
最近話題となったトヨタ自動車のリコール問題も、結局のところはホスピタリティが問われているのかもしれない。かつてメーカーは「より良い商品を開発する」ことが大切だと考えていたが、現在は商品の品質保証だけでなく、返品などに快く対応する良質な顧客対応など、企業に対する信頼・安心感を重視したサービスが消費者から求められているのだ。実際、ホスピタリティに重点を置いた経営戦略により顧客満足度を高め、売り上げを急速に伸ばしているケースも数多い。
また、ホスピタリティは経済活動の現場以外にも、さまざまなシーンで重要な役割を果たしている。家庭や学校、会社などにおいて円滑な人間関係を築くには、優しさや思いやりの心を持つことが非常に大切であることはいうまでもない。つまり、人と人とのかかわりが生じるコミュニティであれば、どこにおいても必要とされるのがホスピタリティだ。
■ どう選ぶ?
学問としてのホスピタリティは、日本ではまだその歴史は浅く、当初は大学の観光学科や専門学校等の観光・ホテル系の学科でホスピタリティをテーマにした科目を学べるだけだった。しかし、ホスピタリティのビジネス的価値の高まりに伴って、学問的な基盤も徐々に整いつつある。
しかし、その数はまだ少なく、ホスピタリティをどのような視点から学ぶかによっても進むべき学部・学科は変わってくる。あらかじめ大学の教育内容をよく調べておくことが大切だ。
■ 何を学ぶ?
ホスピタリティを本格的に学ぶなら、やはり観光産業やレジャー業界での活躍を視野に入れた学科がベストであろう。具体的には観光学科やホスピタリティ・マネジメント学科などである。「観光」と「ホスピタリティ」の2つが学科選びのキーワードとなる。
これらのキーワードを冠した学科では観光関連科目に加えて、ホスピタリティ論やホスピタリティ・ビジネス論などホスピタリティ関連の科目も充実している。フードサービス経営論やホテルマネジメント論など、経営者側に立った科目もあり、サービスの現場におけるホスピタリティのあり方と、経営・マネジメントの視点からの科目がバランスよく履修できる。また、これらの学科では、ホテルやレストランなどでのサービス実習や旅行業務実習などの実習科目を充実させているケースが多く、理論だけでなく、ホスピタリティのあり方を実学的に学んでいくのが一般的だ。海外のホテルなどで実習やインターンシップを実施する大学も多いので、志望大学を検討する際には、実習先の企業名や実習期間、あるいはインターンシップの実績などをチェックしておきたい。
メーカーなどの企業におけるホスピタリティを理論的に学びたいのであれば、経営学科や商学科などがおすすめだ。経営戦略論やマーケティング論などの科目を通じて、企業や流通の仕組みに関して体系的に学ぶとともに、ホスピタリティ・マインドについても多くの学習時間が費やされるケースが多い。
■ 資格は?
ホスピタリティに関連する資格には、NPO法人日本ホスピタリティ推進協会が主催する「ホスピタリティ・コーディネータ」認定がある。ホスピタリティ・コーディネータとは、同協会によると「企業・地域社会・学校・NGO・NPO等グローバルな社会環境の中において、人と人や自然との共生などその環境を改善し、健全な発展を促すホスピタリティの推進役」としており、ホスピタリティ産業などで働く社会人を対象とした認定制度だ。
ホスピタリティ・マインドをベースに、将来、飲食・レストラン業界に進みたいのであれば「レストランサービス技能検定」や「サービス接遇検定」が、ホテルで働きたい場合は「ホテルビジネス実務検定試験(通称・H検)」が業界に関連して資格として視野に入れておこう。
おもてなしの基本であるマナーに関しては、「ビジネス実務マナー検定」や「秘書検定」などの資格がある。また、福祉関連の資格には、社会のさまざまなシーンにおける、比較的健康な高齢者や障害者の介助サービスのレベルアップを目的とした「サービス介助士」がある。