トレーニングの最前線を知りたい。

■ どんな世界?
トップアスリートが、自分一人でコンディションを管理することは稀。専属のトレーナーや栄養管理士、フィジカルコーチなどがついて全面的にサポートするのはあたり前のことだ。優れたパフォーマンスを発揮するためには、多様な科学的理論に基づくトレーニングが不可欠という一例だが、言いかえるとアスリートの栄光を支えているのはスポーツ科学でもあるのだ。
もちろん、スポーツ科学は競技力向上のためだけにあるのではない。体力向上、健康増進は、高齢化が進みメタボリック症候群が深刻化する現代社会において、誰にとっても重要なテーマだ。すべての人が活動的で健康な生活を送るための科学的な知恵が、スポーツ科学でもある。
こうした考え方は「ウエルネス」とも呼ばれる。心身の健康だけでなく人生の価値観、生きがい、さらには社会環境や自然環境なども含めて、健康的な生活を送ることを目的としている。
■ スポーツ科学とは?
「ウエルネス」の考え方が浸透することによって、今後、ヘルスプロモーションの指導能力を活かせる人材が求められていくだろう。健康増進を通じた豊かな社会を実現させる人材。そのために大きな役割が期待されるのがスポーツだ。スポーツは体を動かすという一面だけではなく、人生を健康で豊かなものにするための手段、という側面が期待されている。スポーツ科学は、こうした時代のさまざまな流れに対応して、スポーツを幅広い分野から研究する学問であり、大きく2つのアプローチがとられている。
1つは、医学、生理学、生化学、栄養学などの自然科学的側面からの研究だ。例えばアスレティックトレーナーに必要となる基本的な知識と技能、生活習慣病を予防するための運動、転倒予防を含めた介護予防のために必要な高齢者用の運動プログラムの開発、リハビリテーション、障害状況に応じた適切な運動処方などが重要な研究テーマになる。もう1つは、人文・社会科学的な側面からの研究だ。スポーツは今や、文化的、社会的に大きく貢献する要素であり、政治、経済、教育などとも深い関わりがある。
大きな市場であるスポーツビジネス界で必要となるマーケティングやメディア、イベントなどの知識や、中学・高等学校教員になるための指導技術も学ぶ対象となる。
■ 何を学ぶか?
もう少し細かく見ていくと、自然科学の領域では、正しい動き・テクニックを研究する「スポーツ運動学」、メンタルトレーニングの技法や、スポーツが行動や心に与える影響を探る「スポーツ心理学」、運動によって生じた故障の治療や予防を専門的に扱う「スポーツ医学」、解剖学や力学などを基礎学問として、理想的な体の動きを追求する「スポーツ・バイオメカニクス」などが中心になる。
人文・社会科学領域では、スポーツの歴史や文化、スポーツ倫理、フェアプレイの精神、相手を思いやるフェローシップなどを理解し、「スポーツマインド」の育成を図る。
そのほか、学校や社会におけるスポーツ教育を研究する「スポーツ教育学」、スポーツと人間の関係を哲学的に考える「スポーツ哲学」、スポーツビジネスのあり方を探る「スポーツ経営学」、スポーツが社会に果たす影響を、客観的なデータを元に研究する「スポーツ社会学」などを学ぶ。
■ どんな仕事?
アスリートを支える指導者やトレーナー、スポーツビジネスを担うスペシャリスト、将来にわたってスポーツの方向性を提言できるスポーツジャーナリスト、および福祉・医療の現場でスポーツを活用した指導ができる人材、小・中・高の教員などとしての活躍が期待される。さらには、スポーツ科学の幅広い学問領域や、協調性を重視するスポーツマインドを生かして、さまざまな業種での活躍も期待できる。
■ どんな資格?
まず、小・中・高校の教員免許(保健体育)を取得すれば、学校で各種スポーツの指導者として活動することができる。また、大学によっては日本体育協会公認アスレティックトレーナーの受験資格や、日本サッカー協会公認C級コーチ、財団法人健康・体力づくり事業財団による健康運動指導士、健康運動実践指導者の資格が得られることもある。
特に健康運動指導士は、2006年6月の医療制度改革において、生活習慣病予防が個人の健康づくりだけでなく、中長期的な医療費適正化にも結びつくとして、期待されている。さらに、福祉系の学科では社会調査士や、財団法人日本レクリエーション協会が公認する「レクリエーション・インストラクター」の資格もニーズが高い。
これは地域・学校・企業などで、レクリエーションやスポーツイベントなどの企画・運営に携わるための資格であり、取得後は「福祉レク・ワーカー」「レク・コーディネーター」などへステップアップできる。自分のめざす大学が、どんな資格に対応しているかをよく調べておこう。
■ どう選ぶ?
スポーツ科学部、健康科学部などの名称で、スポーツ科学を総合的に教育・研究している大学や、ウエルネス向上をめざして、福祉系の大学・学部でも、スポーツ科学に関する学科・コースが設置されている。いずれもスポーツを多面的に科学するという点では共通しているが、どちらかというと体育学部ではアスリートの養成・指導、福祉系学部では一般の人々の健康づくりに重きが置かれるといった傾向の違いがある。自分が特にどの分野に興味があるのかを見極めることが大切だ。大学・学部・学科名からではなく、カリキュラムから探すというのも一案。その場合「スポーツ科学」以外には、「スポーツ栄養学」「スポーツ教育学」「スポーツ医学」などがキーワードになる。